第9話「ファラゼロとキラウェルの密会」
ファラゼロが村長に聞き込みをしてから数日後、ガクはファラゼロに道を案内していた。
理由はただ一つ…キラウェルと会うためだ。
そう、この二人は今…シャンクス一族の住居区へ向かっているのだ。
「ガク、まだなのか…?」
ファラゼロの息があがっている。
慣れない山道に、疲れてしまったようだ。
「もう少しです…」
ガクがそう言うと同時に、奥に灯りが見えてきた。
「あそこか?」
ファラゼロが、ガクに尋ねた。
「そうです…。あの場所で、男性と待ち合わせしております」
ガクのこの言葉に、ファラゼロは緊張してきた。
「視界がひらけます」
ガクがそう言うと同時に、大きな広場に出た。
「ここが…シャンクス一族の住居区…」
辺りを見渡すファラゼロ。
「俺は、森の中で男性と話していたので、こうして住居区へ足を踏み入れるのは…初めてです」
ガクはそう言うと、右手をあげて誰かを手招きする。
「遅れてすみません…!」
男性が近づいてきた。
「いえ…俺たちも、先程着いたばかりです」
ガクは、微笑みながら言った。
「そうでしたか…それは良かった」
安心する男性。
「首長の娘さんは…どちらに?」
ファラゼロが、男性に尋ねた。
「灯りがないと見えにくいですかね…それっ」
男性はそう言うと、ランプを持ち上げた。
すると……
ロングヘアーの女性が、ゆっくりと近づいている。
髪の色は茶色で、瞳の色は黒。
シャンクス一族の衣装を身に纏っていた。
そして何より…キラウェルは美人だったのだ。
「………」
あまりの美しさに、ファラゼロは言葉を失う。
「この人が…ファラゼロさん?」
キラウェルは、男性に尋ねた。
「そうです」
男性は頷く。
キラウェルは、ファラゼロを見つめている。
「ファラゼロさん…はじめまして。シャンクス一族次期首長の、キラウェル・J・シャンクスと申します」
胸に手をおき、丁寧に挨拶するキラウェル。
キラウェルの声にハッとしたファラゼロは、慌てて口を開く。
「キラウェルさん、はじめまして。俺はファラゼロ・ブラウン…ブラウン家の次期当主です」
ファラゼロも、丁寧に挨拶をした。
「何だか優しそうな人ですね」
キラウェルは、微笑みながら言った。
「は…はは」
少し困惑するファラゼロ。
「ではファラゼロさんは…私たちを別の場所へ移そうとしているのですか?」
「ええ…今のままでは、親父に見つかるのも時間の問題です」
場所は変わり、大きな広場である。
立って話すのも疲れるとのことで、木のベンチに座って話を始めた。
「そんなことを言われましても…」
キラウェルは困ってしまった。
「やはり…お母さんですか?」
ファラゼロがそう言うと、キラウェルは眉を潜めた。
「母さん…意地をはらずに、もっと素直になればいいのに…」
その言葉を聞いたファラゼロは、キラウェルの母親のことを聞くことにする。
「キラウェルさんのお母さんは…どんな人ですか?」
ファラゼロがキラウェルに尋ねた。
「一族の皆のために自分を犠牲にして、命を懸けて守り抜く…そんな人です」
キラウェルは、微笑みながら言った。
「なるほど…俺の親父とは正反対だな」
苦笑いするファラゼロ。
「ファラゼロさんのお父様のことは…男性から聞いております」
キラウェルが、ファラゼロを気遣うように言った。
「俺の親父も…本当は良い奴なんですけどね。今は…欲望を満たそうとするだけの亡者ですよ」
途中から、怒りの表情を見せるファラゼロ。
そんなファラゼロを見ていたキラウェルは、決心したかのように口を開いた。
「私は…母さんを説得できませんでした。本当ならばここには、母さんが居たはずでした…」
キラウェルは、後悔した表情を見せる。
「キラウェルさん…」
ファラゼロはそう言うと、キラウェルを慰めるかのように頭を撫でる。
「私じゃ無理なら…」
キラウェルはそう言うと、ファラゼロを見つめる。
「??」
不思議そうにしているファラゼロ。
「ファラゼロさんが…母さんを説得してくれませんか?」
キラウェルは、真剣な眼差しで言った。
「ええ!?お…俺が!?」
これには、ファラゼロも驚きを隠せない。
「親い人が言っても無理なら、外部の人が言ったら効果があるはずなんです…お願いします!!」
キラウェルが、必死に懇願する。
「……………」
ファラゼロは、考えるために無言になる。
外部の人間…しかも、シャンクス一族にとって宿敵の、ブラウン家の者の言葉など…誰が耳を傾けるだろう。
逆上するのは目に見えていた。
しかし、キラウェルはそれをわかっている。
わかっているからこそ…ファラゼロに頼んだのだ。
“この人なら…大丈夫!”と、信じているのだ。
「キラウェルさん…俺は……」
ファラゼロが何かを言いかけたときだった。
「誰だ!!」
突然ガクが、武器を構えたのだ。
「ガク、どうした!?」
ファラゼロがガクに近寄る。
「ファラゼロ様…誰かこちらに向かってきます!!」
武器を構えたまま、臨戦態勢をとるガク。
「気付かれたか…?」
ファラゼロがそう言うと同時に、その誰かは姿を現した。
赤いロングの髪に、茶色い瞳…可憐な女性が、この広場に向かっていたのだ。
ランプの灯りのおかげで、近付くごとに容姿がはっきりとしてくる。
そして何より…キラウェルに似ているのだ。
「この人は…?」
不思議そうにしているファラゼロ。
その時…キラウェルが口を開いた。
「か……母さん…」
キラウェルは驚く。
キラウェルの言葉を聞いたファラゼロは、驚きを隠せないままその女性を見る。
彼女の母親なら…顔が似ているのは納得できる。
我にかえったファラゼロは、ガクを見た。
「ガク!武器を下ろすんだ!!」
「しかし…」
「この人は敵じゃない!!」
ファラゼロの言葉に従い、ガクは武器を構えるのをやめた。
重苦しい空気が流れるなか、先に沈黙を破ったのは…
「母さん…その…私は…!」
キラウェルだった。
「キラウェル…部屋へ戻っていなさい」
ファラゼロを睨み付けるレイウェア。
「嫌よ!!」
キラウェルはそう言うと、レイウェアを見つめたまま…ファラゼロの前に立ち塞がった。
「なんの真似です!?」
これには、レイウェアも驚きを隠せない。
「この人は敵じゃない!!信じてよ!!」
キラウェルは叫んだ。
キラウェルの言葉に…レイウェアは再びファラゼロを睨み付ける。
あの重苦しい空気が…さらに重くなったと、この時ファラゼロはそう思った。
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