表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/27

第六章‐1

 陸軍第六辺境警備師団第二連隊第一大隊の大隊副官、セラフィーナ=カルティアイネン中尉は、上官である大隊長、ハンナ=シュタウフェンベルク大尉に声を掛ける。

「ハンナ隊長、よろしいですか?」

「なんだ、セラ?」

 ハンナが振り向いた。セラフィーナはその眼を見ながら、意見具申する。この雷の化身のような大隊長に面と向かって意見を言えるのは、この大隊内でも彼女しかいない。

「シャンティエ少尉とブラウスパーダ少尉のことです。彼女たちの隊だけに船橋の制圧を任せるのは、少々荷が重いのではないかと」

「む。そろそろ、やつらにも経験を積ませてもいい頃合だと思ったのでな。勿論、無傷とはいかんだろうが、心配せんでも、それほど酷い損害は出させんよ。その為の後詰に、自分とおまえ、それに古強者のヴラジミーロフ少尉の第一小隊が控えている」

 さすがに大隊の指揮官だけあって、その場の思い付きだけであんな命令をしたわけではないようだ。そのことに少し安堵しながら、セラフィーナは言葉を継いだ。

「ですが、なんの作戦も与えないというのは、少々厳し過ぎるのでは?」

「おまえは過保護だな。やつらとて、死にたくなければ己の頭で考えるだろう。先ほどから、ああしているようにな」

 ハンナはそう言って、第七、第八小隊の輪に視線を戻す。そこでは、二つの小隊の隊員たちが、何事かを話し合っているようだった。突入に備えて作戦を立てているのだろう。ハンナは再び、視線をセラフィーナに向け直した。

「一つ一つ、経験の積み重ねだ。最初から完璧に上手くやれるなどとは期待してはおらん」

 ハンナの言葉にセラフィーナは頷く。

「ハンナ隊長のお考えはわかりました。差し出口を利いて申し訳ありません」

「いや、構わん。この隊でそんなことを言ってくれるのは、おまえくらいのものだ」

 そう言って、ハンナは面白くもなさそうな笑みを浮かべた。『鉄雷』の二つ名で呼ばれ、部下たちから過剰とも言えるほど恐れられていることに、思うところでもあるのだろうか。

 そのとき、第七、第八小隊の話し合いの声が漏れ聞こえてきた。

「――いや、だからさ、結婚ってのは、そんな簡単なもんじゃねぇだろ?」

「だって運命なんだもん。万物創生のときから神によって定められていた(ことわり)なんだもん」

「……ずいぶんスケールのデカイ話だな、おい」

 ――なんの話をしているのだろう?

 セラフィーナは少し不安になる。

「そんなことより、そろそろ動いたほうがいいのではないでしょうか。先ほどから、シュタウフェンベルク大尉とカルティアイネン中尉が、こちらを気にしているようです」

「ちょ、待っ、そんなことってなんだよ、エリカ!? こっちは人生の一大事なんだぜ!?」

「はいはい、アッシュ。その一大事とやらについては、後ほどジゼルと二人で心ゆくまでお話して頂けますか」

「そうね。二人っきりでお話しましょ。うちの両親にいつ会うかとか、式の日取りとか」

「……さっきから思ってたんだが、エリカ、なんか怒ってないか?」

「いえ、別に」

 セラフィーナは、そっとハンナのほうを窺ってみた。第一小隊の小隊長、古参のドミトリー=ザハーロヴィチ=ヴラジミーロフ少尉となにか打ち合わせをしている彼女には、この緊張感の欠片もない会話は聞こえていないようだ。

「とにかく、その話は後にして下さい。今は与えられた任務を遂行するのが先です」

「そうね。華々しい経歴の一つも作っておけば、式のときのスピーチのネタになるし」

「あぁ、もう、わかったよ! とりあえず、やることやっちまおう! ――じゃあ、ジゼル、さっきまでと同じ手で進むぞ。エリカたちは、ジゼルたちと同じようについてきてくれ」

「わかったわ、ダーリン」

「……だから、ダーリンは止めろ」

 どうやら、ようやく動き出すらしい。セラフィーナは、ほっと息をつく。だが、すぐに驚きの声を上げた。

「ハンナ隊長! あれを!」

「――なに? む? あのばかはなにをしようとしている!?」

 セラフィーナが指すほうを見たハンナも、同様の声を上げる。

 第八小隊の現地協力員だという民間人の少年が、牽制の銃弾が飛来している曲がり角のほうへと、一人で歩き出してしまったのだ。常識的に考えれば、まずは遮蔽物の陰からの砲撃でバリケードとそこに潜む敵を排除し、然る後に、後方からの援護射撃を受けながら近接型が突入する、というのがセオリーだろう。しかし、その民間人の少年は、ひょいっと気軽に曲がり角の向こうに歩み出してしまった。常駐魔法の防御魔法陣(シールド)を展開し続けて銃弾を防いでいるようだが、あんなやり方でいつまでも集中力が持つ訳がない。そう思ったとき、その少年が、青い手袋型の魔装具を着けた右手を前に突き出して、コマンドを唱えた。

「『魔神の掌』!」

 彼の眼前に、影色の防御魔法陣(シールド)が展開する。その大きさは、ちょうど通路の上下の高さと同じだ。その防御魔法陣(シールド)の陰に、第七、第八小隊の面々がぞろぞろと入っていった。左右の壁との間に隙間はあるが、防御魔法陣(シールド)は飛来する銃弾から彼らを守るには十分足りる。そうして、彼らはその防御魔法陣(シールド)を文字通り盾にして、警戒心の感じられない足取りで進み始めた。

「やつら、維持した防御魔法で攻撃を防ぎながら進もうというのか? だが、あの大きさで、あれだけの弾幕を防ぐ防御魔法陣(シールド)を維持し続ければ、その魔力消費(コスト)もばかにはならんだろう」

 ハンナが眉をしかめる。愚策に思えたのだ。

 しかし、驚くべきことに、その少年はさらにコマンドを唱える。

「『鋼の(あぎと)』!」

 彼らの右前方のバリケードの上下に、直径五メートルほどの影色の魔法陣が出現した。それは中心に向かってバクンッと閉じると、その中にいた三人の海賊を拘束してしまう。

多重処理(マルチタスク)で、さらに範囲指定型の魔法を!?」

 セラフィーナは驚愕した。ただでさえ、あれだけの規模と強度の防御魔法陣(シールド)の維持に魔力リソースを取られているところへ、魔力消費が大きい範囲指定型の魔法を同時に使うなど、普通では考えられない。隣で同じものを見ていたドミトリーが、やや唖然とした口調で呟く。

「あの防御魔法、おそらく維持コストを極限まで削ぎ落とすようにソースを最適化してカスタマイズされているな。……いや、あそこまでのレベルだと自作のアルゴリズムか? あの範囲指定型拘束魔法も見たことがない型だし、自作した魔法の可能性が高い……」

 後方でそんな感想が囁かれているとも知らずに、第七、第八小隊は進んでいく。途中のバリケードや分岐路の角などから銃撃してくる海賊たちは、防御魔法陣(シールド)を維持している少年に指示されたセピア色のロングヘアの隊員か、その少年が自分で多重処理(マルチタスク)を行って、拘束魔法を掛けてしまう。それを残りのメンバーが、適当にスタンダメージを与えて気絶させてしまうのだ。その戦術は全く危なげがなく、彼らの歩みも滞ることがない。

「むぅ……。ここまでも、ああして進んできたのか。道理で早いはずだ」

 ハンナのその声には、呆れたような色が混じっていることに、セラフィーナは気付いた。この豪胆な上官がそんな感情を見せるなど、滅多にあることではない。

 そういえば、とセラフィーナは、先日、第八小隊から提出された報告書の内容を思い出す。現地協力員の魔法使いが一人で軌道上の戦艦を中破させた、という信じ難い記載ばかりが取り沙汰されているが、おそらく彼の本質はそちらではない。信じ難い記載は、もう一つあった。その魔法使いが戦艦の主魔力砲を止めてみせたという――。今、目の前で繰り広げられている光景は、規模こそ違えど、それと同質のものなのではないだろうか。

 セラフィーナがそんな思索に耽っている内に、第七、第八小隊は通路の中ほどまで進んでいた。残存の海賊も十人程度だろう。船橋へ繋がる扉はもうすぐそこだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ