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第五章‐3

「あたしの可愛いジゼルを助けてくれて、本当にありがとう!」

 クラリッサは、アッシュの両手を握ってぶんぶんと振る。アッシュは気圧されて手を引き剥がそうとしたが、彼女はしっかりと両手を握っていて離れなかった。

「さっきも言ったように、たまたまだってば。そんなに礼を言われると、恐縮しちまう」

「でも、あいつらの使ってたのは魔力剣じゃなくて本物の刃物だったんだもの。この可愛い顔に傷でも付いてたらと思うと――、あーん」

 クラリッサは今度はジゼルに抱き付き、頬擦りする。ジゼルは、どことなく心ここにあらずといった様子で、彼女を窘めた。

「……リッサ。そろそろ落ち着いて」

「はいはーい」

 テンションの高さを自分でコントロールすることでも出来るのか、クラリッサが素直に返事をして、おとなしくジゼルから身体を離す。

「小隊長ー、記録終わりましたよー」

 勝負の為の、捕らえた海賊の写真撮影を終えたクォンが声を掛けてきた。ジゼルが頷く。

「……そう。じゃ、出発しましょ」

 一同は小ホールを出て、周囲を警戒しながら通路を進み始めた。この巨大な豪華客船の通路は、彼らの軍艦の通路のように、場所によってはすれ違うのにも難儀するというほど狭くはない。狭いところでも、ゆったりと二人並んで歩けるくらいの幅がある。

 チッピィを連れたアッシュの隣を歩いていたクォンが話し掛けてきた。

「あんたの防御魔法陣(シールド)、離れたところに展開して、それを遠隔操作出来るなんて珍しい仕様だな。どこの製品だ? 情報誌でも見掛けた覚えねーし、すごいマイナーなメーカーなのか?」

「あぁ、あれは、ほとんど俺のオリジナルだよ。一応、常駐魔法の防御陣をベースにしてるけど、もう原型留めてないな。後から、任意展開型の防御魔法とか、結界魔法やら拘束魔法まで参考にしてコピったりした部分もあるし」

 アッシュのその答に、クォンは目を見開く。

「オリジナルって、自作かよ!? すげー!」

「いや、市販の魔法をベースにして、気になる点が出る度にカスタマイズにカスタマイズを重ねてったら、結果的にあんな風になっちまっただけだ。一から設計して組み上げたわけじゃないから、それほど自慢出来るもんでもねぇよ」

 アッシュは一応、謙遜した。しかし、あの防御魔法『魔神の掌』は、ほとんど彼の代名詞とも言える魔法だ。褒められれば、内心ではそう悪い気分ではない。

「じゃあ、あれも自作か? あの防御魔法陣(シールド)から鎖が出る拘束魔法。あんな変なの、専門誌でも見たことねーし。それから、手からロープが伸びる拘束魔法。ああいうのも見掛けねーし」

 クォンが立て続けに聞いてくる。アッシュは頷いた。

「ああ。まぁ、どっちも一応、ベースは座標指定型の拘束魔法だったんだけどな。アイデア優先でいじりまくってたら、あんな感じになった」

「ホントかよ……。なにをどうしたら、座標指定型があんな形になるんだ?」

 アッシュの答を聞いて、クォンが呆れたような声を上げる。クォンはその青紫色の、中途半端に伸びたような長さの髪をくしゃくしゃと掻きむしった。

「俺も結構いじってるつもりだったけど、あんなわけわかんないほど独創的なのは、作ったことねーよ! なんか、悔しいー!」

「なんだそれ? 褒められてんのか?」

 アッシュは苦笑する。

「そういえば、得意は防御と拘束だと言っていましたね。納得です」

 後ろを歩いていたマークが言ってきた。アッシュは肩越しに振り向く。

「ああ。地味だろ?」

「十分、派手だよ」

 隣のクォンが笑いながら言った。

 振り返ったので、マークの隣をとぼとぼと歩いているカテジナの姿が目に入る。時折、溜め息も吐いていた。先ほどからマークがなにか言葉を掛けているのには気付いていたのだが、見てみると明らかに意気消沈しているようだ。

「……カテジナ、どうしたんだ?」

 問い掛けてみると、カテジナはちらりと視線を上げた。

「あ、いえ、その、わたし、また、なんの役にも立たなかったな、って思って……」

「カテジナは何型だ? なにが得意なんだ?」

 そのアッシュの問いに、カテジナは悲しげな表情で首を振る。

「いえ、あの、特に、なくて……」

「うちの小隊、近接に射撃に砲撃がいて、俺が観測系だろ? 欲を言えば、もう一人ぐらい近接がいてくれてもいいと思うんだけど、性格的に向いてねーしなー」

 クォンが口を挟んできた。マークがその後を引き継ぐ。

「というか、攻撃魔法全般が怖いらしくて。それで、あまり使い勝手はよくありませんが、拘束系を使ってみたらどうか、って話になっているんですよ。小隊の戦術の幅も広がりますし」

「拘束魔法なら、自己流でもよければ俺がコツを教えてやるよ」

 気付くと、アッシュはそう申し出ていた。この儚げな少女は、どこか力を貸してやりたい気分にさせるのだ。

「それは助かります。カテジナ、よければ教えてもらうといい」

 マークが隣のカテジナに声を掛ける。カテジナはおずおずと頷いた。

「は、はい。よ、よろしくお願いします」

「ああ。――で、どんな拘束魔法持ってるんだ?」

「基本の、座標指定型だけ、です」

 アッシュの質問に、俯いて答えるカテジナ。マークがフォローするように言った。

「魔法も決して安い買い物じゃありませんからね。入隊して一年程度の子の給料では、そうそう気軽に出せる金額じゃないでしょう?」

「……そうなのか?」

 アッシュは、先日、エリカに借金をして、大量の魔法を購入している。異星の金で価値がわからないと思って、ずいぶん買ってもらってしまったが、あれはひょっとしてとんでもない額だったのではないだろうか。少し、冷や汗が出る。今度、エリカに、自分の借金は彼の国の通貨に換算してどのくらいになるのか、確認してみたほうがいいのかもしれない。

 アッシュはその考えをいったん棚上げして、強引に思考を戻した。

「座標指定型な? まぁ、俺も、ずいぶん感覚的に使っちまってるから、うまく教えられるかわからないけど。――座標指定型に限らず拘束魔法の最大のコツは、とにかく相手の不意を打つことかな。気付かれる前に起動出来るのがベストだけど、まだ見せてない魔法を突然使ったり、一度見せた魔法でも意表を突いた使い方をしたり、とにかく工夫することだ。――座標指定型に限った話をすれば、起動して、相手の周りに拘束用光輪が出現してから締まるまでの間に、約一秒のタイムラグがある。反応が早い相手だとその間に脱出されることもあるから、気を抜かないようにな。――座標指定のやり方は、あー、俺のやり方になっちまうけど、常に自分の座標を頭の片隅で意識しておいて、自分を軸にして目測で相手の相対座標を確認、後はそこから絶対座標を計算するだけだ」

「は、はい」

 カテジナは、真剣な様子でコクコクと頷いている。

 ふと、アッシュは視線を感じた。カテジナと話をする為、後ろを振り向きながら歩いていたのだが、首を前に戻してみる。すると、前を歩いているジゼルと目が合った。彼女も後ろを向いて歩いていたらしい。後ろでごちゃごちゃお喋りしているのが気になったのかな、と思う間もなく、彼女は慌てたように前に向き直ってしまった。ジゼルの隣のクラリッサが、そんな彼女の横顔をなにか訳知り顔で見つめている。

「? ――っ!? 『魔神の掌』!」

 前に向き直ったのはたまたまだったが、いいタイミングだったらしい。前方のカフェに潜んでいた海賊が銃撃してきたのだ。アッシュの起動した防御魔法が間に合い、銃弾は防御魔法陣(シールド)の表面で、全て弾かれる。影色の防御魔法陣(シールド)の直径は、通路の床から天井までと同じ。通路の横幅はもう少しあるので、左右に隙間が開いているが、身を寄せ合えば全員が防御魔法陣(シールド)の内側に隠れられる。マークとクラリッサが、それぞれ魔装銃と魔装砲を構え、ジゼルも魔装薙刀を持ち直すが、アッシュが手を伸ばして彼らを制した。

「……なんです?」

 マークが聞いてくるが、それには答えず、アッシュはカテジナを振り返る。

「相手は一人だけみたいだな。――じゃあ、俺が防御しておくから、カテジナ、さっき教えた要領で拘束してみろ。落ち着いて、ゆっくりでいいからな」

「え? あ、は、はい」

 アッシュの指示にあたふたと頷くと、カテジナは魔装具らしい、古そうな、しかし精緻な細工の施された指輪を中指に嵌めた右手を前方に差し伸べた。銃撃は散発的にタタタンッタタタンッと続いているが、銃弾は全て防御魔法陣(シールド)に阻まれている。

「……『バインド』」

 幸い、海賊はカフェの入り口で動かずに銃撃を続けていた。カテジナの拘束魔法が起動し、その海賊を三本のクリーム色の光輪が拘束する。

「で、出来ました!」

 カテジナが、初めて見るような明るい顔で報告してきた。アッシュも、なるべく優しそうに見える笑顔を作って頷く。

「その感覚を忘れないようにな。後は、それを少しずつでいいから、素早くこなせるようにしていくだけだ」

「は、はい。あ、ありがとうございます。……せ、先生?」

 カテジナが上目遣いで小首を傾げる。その仕草と台詞に、アッシュの背筋をぞくぞくするなにかが走った。

(……いや、俺、ロリコンじゃねぇし!)

 誰に対してかわからない言い訳を、心の中で叫ぶ。アッシュは照れ隠しに、その黒白半々の頭をガシガシと掻いた。

「なんか、気恥ずかしいけど……。まぁ、いいか。好きに呼んでくれ」

「は、はい。先生」

 こうして、アッシュには生徒が出来ることになったのだった。

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