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序
貴よ。貴い名を持つ麗しき者よ。そなたにやがて、迎えの者が来るだろう。一人目はそなたの命の恩人であり、最後には壁となる者だ。二人目は、そなたの永遠の友となるであろう。
さあ、目覚めよ。貴よ、お前は今日から新しい日を迎えるだろう。
(だれ?)
貴が薄目を開けると、宿屋の薄暗い個室に、朝日が差し込みはじめているのが見えた。枕元にある髪飾りに手を伸ばすと、貴子は窓辺に歩み寄り、窓を開けた。眼下に、黒都の大通りが見える。その先には知事の邸宅がある。ぼんやり眺めていると、そこから人が何人か出て来るのが見えた。
貴は直感した。あれはきっとここに来る。そして、自分を迎えにくるだろう。
天暦一五〇年の二月の事である。貴は髪飾りを髪にさすと、ふっくらと赤い唇に、笑みを浮かべるのだった。