一章:神様ト眷属ハ戦姫ヲ攻略ス
人生疲れました。
結構辛いモノですね
小説に逃げようかと思う日も...ある。
では、どうぞ。
床は黒い水晶の様なモノで敷き詰められ、壁は濁りのない白い水晶で、周囲から降り注ぐ光を全て外界に反射させる。家具が無ければ黒と白で視界が収まる14畳程の部屋。
部屋の中心には一人様の白い椅子が二つ隣り合わせに並び、その前に小さな炬燵机がちょこんと設置されている。部屋にはそれ以外の家具は見つからず、なんとも寂しい雰囲気を作り出す。
―――ピコ...ピッ..ピッ
閑静な黒白の部屋にリズミカルな機械音が無償に響いた。ソレに合わせて布が擦れる様な音も小さく聞こえる。
――…ピッ
『アイツに勝ちなさい!』
機械越しに甲高い女性の様な声が発せられる。機械画面を覗くと、赤髪の少女が画面側から此方に指を『ビシッ』という効果音と一緒に射してきていた。
《.........。》
機械画面を覗きにきた黒髪の女性―――ユフェイは画面を覗いた瞬間に固まった様に動かなくなる。
画面が切り替わり、巫女服を着た碧髪の少女が剣を片手に何かの構えをとり、その頭上に【cp/HP100/100/MP100/100】と表示される。碧巫女少女に相対するは銀髪を短く切った男性。男性の頭上は【1p/HP100/100/MP100/100】と表示されている。
機械画面に大きく【GO】と表示され、瞬間。碧巫女少女が構えていた剣を投げた。男は投げがくる事を"知っていた"かの様にジャンプでかわそうとする。が、投げられた剣が上に跳んだ男を追跡するかの様に空中で旋回して、吸い込まれる様に男の首筋辺りに直撃。男の頭上は【HP0/100】となり【Your.loss】と画面にでかく表示される。豪華なエフェクト付きで。
小型機械を両手に掴んでいた銀髪の少女がぷるぷると震えだしながら奇怪な声を挙げ、ついには大声で叫んだ。
《勝てるわぎゃぁああッ!ねぇえだろぉおおッ!!》
と。
.........。
......。
...。
《...神様、......何をしてらっしゃるのですか。》
ユフェイはどんな返答が返ってくるのかを理解した様な表情...もとい、面倒そうな表情で目の前の少女―――神様に話しかける。
...。
《うう、....実はな、攻略できないヤツが居るのぢゃよ。》
質問に対する返答がコレだ。
少女は蒼い瞳と、踵に届くくらいまで銀髪を無造作に伸ばし、小さな身長より長い黒衣から覗く白すぎる肌は酷く華奢で健康的でありながら細く、弱々しくも思える。
そんな小動物の様な少女......神様は、片手に小型ゲーム機、もう片方の手に『まじかる☆バスター戦姫!~説明書~』を持ち、ゲーム機の画面と説明書を交互に睨んでいた。
《......神様のご要望を逆らう輩はコイツですか?》
電子系についての知識が皆無であるユフェイはこの小型ゲーム機を『敵』と認識し、即、壊した。
小型ゲーム機は神様の手の中で『メキョギェ』と奇怪な音を起ててひしゃげた。原型を留めていないくらいにだ。
そんな放心状態の神様と、勝ち誇った様に腰に両手を当て『どうだ!』と言わんばかりにニヤニヤ顔で神様を見据えてたユフェイ。
......。
...。
涙目でユフェイを睨みつけた神様だが、無表情に戻った彼女に勝てないと察したのか俯いて『ぅうっ』と泣き入る。ソレをも無視し続けたユフェイは、その間に紅茶を入れてきていて炬燵の上には花柄のティーカップが二つだけ乗っている。
幾ら泣き入っても構ってくれないユフェイに痺れを切らした神様は、うんざりといった様な表情で紅茶に手をつける。
...。
黒と白の部屋に『ズズズ』と紅茶を啜る音だけが響く。神様は『ふはぁ』と息を吐き出し名残惜しそうにティーカップを炬燵に置く。
本題だと言わんばかりに前のめりに身体を動かし、炬燵に両肘を付いた状態で自分の指と指を絡め、絡めた指で顔を隠す。その状態のまま『聞いてくれなのだ、ユフェイ』と、甘え声で言い放ち、俯きながら正座状態である肢をもぞもぞと動かす。
《...ユフェイ、僕は、......人間を研究しようと思ワレ?》
《何故疑問系なんでありますか。...てか人間研究ですか、解剖でありますね?》
神様は俯きながら唸る様な声音で決意の言葉を発し、ユフェイはソレを無表情で軽くあしらう。
『ガバッ』と突然と顔をあげた神様は、ユフェイの言動を無視して先程の『人間研究』について詳細にしようと思い、ユフェイの藍い瞳を射る様に見据える。
《...人間の"意志"を研究すれば、この『まじかる☆バスター戦姫!』を攻略できると思うてな。だから、どうすれば良いかユフェイに聞こうと思うてな。......それで、どうすれば人間を理解できるのだ。と思うてな。......それでぇ...その、あの―――。》
―――プルルルル...プルル
決意の言葉を無情にも遮る携帯の着信音。口を開いた状態のまま固まった神様を放置し、ユフェイは「失礼」と一言だけ断りを入れてから、携帯を懐から取り出す。
携帯には『閻魔の田中さんラブ』と表示されていた。どうやら電話先は閻魔の田中さんらしい。
――ピッ
《もしもし紅茶会社Kamiyoのユフェイですけれども、......はい、大丈夫です。..........え、貴方がですか?珍しいですね。どうしましょうか。.........ええ、...ですねぇ...分かりました。連れて其方にお伺いします。と御伝えください。...はい、..分かりました。失礼致します。》
声は引き締まり凛としていたユフェイだが、電話を切った途端に頬はデレっとなった。若干緩まった頬を引き締めんとばかりに両の平手で叩いた。それでも緩まってしまうのを神様は冷たい瞳で見据える。
《...それで、電話の内容はなんぢゃ?》
拗ねた様な口調と声音で発せられた声は、小さいながらも酷く響き、ユフェイは『...神様、萌ェ』と頬を紅くしながら呟く。
呟きを消し去らんとばかりに咳払いをし、本題に移る。『仕事です』と言い放つユフェイは何処かイラついている。ソレを聞く神様はわくわくしているとばかりに瞳を輝かしていた。
《...田中さん部下その1のミスで【第3外界】の人間が2人、余分に死んだそうです。......人間共は田中さんに対して、生意気な事に記憶の残る転生を要望しているそうです。人間曰く『お前等のミスだろう』だそうです。うざいですね。殺しますか?》
田中さんに命令口調で会話していたのが許せないらしいユフェイは額に青筋を浮かび上げながらも冷静な口調で喋ろうとするが、逆にソレが低い声をつくる原因となり、10倍増しの威圧が発生している。
苦虫を噛み締めた表情で瞳は死んでいる様に輝きが消え、何時の間に持ってきたのか、片手には背丈よりデカイ大剣が握られていた。
だが、そんなユフェイの感情はどうでも良いとばかりに冷静な表情で神様は立ち上がり、命令を出す。
《......ソイツに会いにいく。話たい事があるのぢゃ。》
その言葉にピクリと反応するユフェイだが、神様はそれを無視して部屋の出口...扉に向かう。
ユフェイは『御意』とだけ返し、大剣と紅茶のカップを【亜空間】に戻したあと、神様の背後2歩の斜め3歩の位置に立ち、その後について行った。