"永遠の部屋"
手術室の壁のタイルは、幾つか血に塗れて居る
無影灯は息を引き取ったように静まり返り、部屋はほとんど闇のようだ
僕と君は、既にそれに眼が慣れて始めて居た
君の白く骨張った手を、手の甲から指の先まで、滑るように嘗めてなぞる
君は椅子の上で羞恥に眼を背け、やがて瞼を降ろす
そう
シャツ姿をした君の躰は、いま僕の腕に力無く抱かれて居るが、頭部だけは切り離されて、椅子の上に置かれて居る
「ねえ」
時折振り向いて、とろけた上目遣いに君の顔を視る
「…………美味しいよ」
「とっても美味しい」
君は眼を閉じたまま、悔しそうに口元を歪める
僕はわざと音を立てて、君の首の断面を味がしなくなるまで嘗め尽くすと、今度は肩口に噛み付いた
口の中に、紅くて塩辛い躰液の味が広がっていく
薄眼で様子を伺おうとした君が「ひっ」と声を上げるのが聴こえて、僕はもう一度君の顔を視た
眼が合って
僕は、口の端を吊り上げて嗤う
「こんなこと」
「もう、止めてよ」と、君が泣きながら弱々しく懇願する
僕は、君の肩から口を離す
君の皮膚には、僕の歯型が不可逆的に刻まれて居て
その事がたまらなく、嬉しかった
口を開ける
君に歯並びの、糸切り歯の部分を誇示し、視せ付けるように
君の眼を視ると、瞳孔が恐怖で拡がるのが観察出来た
眼を合わせたまま二度、三度と、君の躰に真っ赤な歯型を付ける
十回も噛む頃には、僕の唇は、跳ねた血液が油絵のように重なり合って居た
嗚咽が聴こえる
残念ながら、君にはもう、涙を拭う指すらが付いて居なかったが
僕が金属のトレイからメスを持つと、君は残された生命総てを絞り出すような怒りで、僕に「やめろ!」と叫んだ
「どうして………!!」
「約束が違う!」
もちろん、そんな約束もしたかも知れない
でも、頭しか無い人間に僕を罰する事など、事実上不可能だった
それにしても、なんて甘い歌声なのだろう
続く罵声を聴きながら、僕は君の胸から脚の付け根まで、鮮血で一本の線を引いた
腹膜が開放され、息苦しさに空気を吸いたがっていた君の中身が、ゆっくりと躰外に姿を視せる
僕は恍惚と眼を閉じながら、腹部から吐き出された君の『それ』をべちゃべちゃと握り締め、頬擦りを繰り返した




