第6話:下水道の詰まり解消。街の鼻詰まりを救った英雄(不審者)
街の西区。そこには現在、異臭の立ち込める地獄が広がっていた。
「ダメだ……! 完全に詰まっている! 詰まりの核が硬すぎて、並の魔法じゃビクともしない!」
「このままじゃ汚水が逆流して、あと一時間で街が『茶色い海』に沈むぞ!」
絶望する衛兵や清掃員たち。そこに、カツカツと冷徹な足音を響かせて氷の受付嬢アイリスが現れた。
「皆さん、ご安心を。本日の清掃代行――いえ、**『特殊清掃の聖騎士』**を連れてきました」
彼女が指差した先。そこには、地下倉庫から引きずり出された俺と、柴犬サイズの神竜ポチ、そして「地下で服を着るのを忘れた」ままショール一枚で歩く元特級魔導師ミレーヌが立っていた。
「……アイリスさん。これ、本当に俺の仕事?」
「ええ。貴方のその指、岩盤を貫くのでしょう? 街の鼻詰まりを救いなさい、エクスプローラー」
俺はため息をつき、汚泥が渦巻く下水道のマンホールへと飛び込んだ。
目の前には、巨大なゴミの塊とスライムの死骸が凝固し、まさに「街の鼻糞」と呼ぶにふさわしい、直径三メートルの巨大な障壁が鎮座していた。
「ひどいね、これは。私の火炎魔術で焼き払おうか?」
ミレーヌが唯一のショールを脱ぎ捨てようとするのを、俺は全力で止めた。
「待て! メタンガスに引火して街が吹き飛ぶ! ……ここは、俺がやる」
俺は右の人差し指を突き出した。
オリハルコン級の硬度。光速の振動。神が聞き間違えて授けた、呪われしギフト。
「スキル発動――『超高速鼻ほじり・広域貫通』!!」
ズドボボボボボボボボボボボボッ!!!
下水道の奥底に、凄まじい「吸引音」と「掘削音」が反響した。
俺の指先は、光速を超える振動で汚物の塊にコンタクトし、その結合組織を分子レベルで粉砕していく。
「な……何だあの動きは!? 指先が……残像で見えない!」
マンホールの上から覗き込んでいた清掃員たちが、驚愕で目を見開く。
「見てください! あの巨大なゴミの山が、まるで吸い込まれるように……! まさか、指の振動で生じた真空状態で、汚物を一箇所に集めているというのか!?」
「いいえ、違います」
アイリスが真顔で解説した。
「あれは単純に、**『究極に効率の良い鼻掃除の動き』**を再現しているだけです。彼は今、下水道を街の鼻腔だと認識しています」
俺の指先が、詰まりの核である『巨大な魔獣の骨』に到達した。
俺はそれをオリハルコンの爪でガッチリとホールドし、全力で「引き抜いた」。
「これだ……! フンッ!!」
ズポォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
快音。
それは、世界で最も巨大な鼻詰まりが解消された瞬間だった。
ダムが決壊したかのような勢いで、汚水が一気に流れ出し、詰まっていたゴミの塊が俺の指先に引きずられてマンホールの外へと「排出」された。
「「「お、おおおおおおお……!!」」」
地上では歓喜の声が上がった。
汚泥まみれになりながらマンホールから這い上がってきた俺を、人々は英雄を見る目で見……なかった。
「……すげえ。本当に指一本でやりやがった」
「でも、あの指……なんか、見てるだけで自分の鼻の奥がムズムズするんだけど」
「ねえ、あのお兄ちゃん、さっきの汚い塊を指先一つで……」
子供たちが、怯えた顔で自分の鼻を両手でガードしながら去っていく。
俺の右指は、汚泥の中でも一点の曇りもなく輝いていた。女神の加護で汚れが一切付かない仕様が、逆に「不気味なほど清潔な変態」感を際立たせている。
「お疲れ様。開通しましたね、ヴォルガッシュ様」
アイリスが、除菌液を空間に散布しながら近づいてきた。
「報酬の肉です。あ、ポチさん、貴方の分は特大ですよ」
「うむ! 主の指は相変わらず不快だが、この成果(肉)には満足だぞ!」
俺たちは、街の平和(と鼻腔の安全)を守った代償に、またしても市民からの「畏怖という名の軽蔑」を勝ち取ったのだった。




