第5話:地下倉庫の住人。脱げば脱ぐほど強い露出狂の魔導師
地下倉庫の重い扉が閉まった瞬間、俺の騎士としての輝かしい未来もまた、ガチャンと音を立てて閉ざされた。
カビ臭い階段を下りきると、そこは魔導ランプがぼんやりと灯る、広大で寒々しい空間だった。
「……おや。新入りの『変態』かい?」
暗闇の中から、妙に艶やかな、それでいて知性を感じさせる声が響いた。
声のした方を見ると、山積みの古文書に囲まれて、一人の女が座っていた。
整った顔立ち。輝くような金髪。だが、問題はその格好だった。
布面積が絶望的に少ない。というか、大きな魔導書を膝に置いて隠しているだけで、ほぼ「装備:なし」の状態に見える。
「なっ……ななな、何をやってるんだあんたは! 服を着ろ、服を!」
「失礼だね。私はこれでも王立魔導院の元特級魔導師、ミレーヌさ。
私のスキル『脱衣詠唱』は、布を脱げば脱ぐほど魔力が跳ね上がるんだ」
ミレーヌと名乗った女は、面倒くさそうに髪をかき上げた。
「まあ、こう見えてうちの家系は代々“魔力効率”を研究していてね。
私はその最終形みたいなものさ」
「本気を出したら街を三つほど消し飛ばしちゃってね。……もっとも、その時は完全に全裸だったから、被害報告よりも羞恥心で死にたくなったけどさ」
「……この地下、ろくな奴がいないな」
「あんたのことは聞いてるよ。『鼻ほじのヴォルガッシュ』だろ? アイリスから聞いたよ。脱がし屋の私と、鼻ほじのあんた。……ふふ、最高の地下生活になりそうだね」
最高どころか、最悪の予感しかしない。
俺は自分の寝床を確保しようと、隅の方に荷物を置いた。すると、ポチがくんくんとミレーヌの周りを嗅ぎ始めた。
「主よ。この女、美味そうな魔力の匂いがするぞ。だが、なぜ布を纏わぬのだ? 我の鱗を少し分けてやろうか?」
「おや、喋るトカゲかい。可愛いねえ。……いいかい、トカゲちゃん。人間界には『効率』という言葉があるんだ。服を着る手間を省けば、それだけ早く敵を滅ぼせる。究極の時短だよ」
「(ただの露出狂の言い訳にしか聞こえない……)」
俺が呆れていると、ミレーヌがふと俺の右手に目を留めた。
「……へえ。それが噂の、オリハルコンの指かい。……ねえ、ちょっといいかな?」
ミレーヌが俺の右手を掴み、マジマジと観察する。
「……すごい。魔導師としての私の眼から見ても、この指の粒子密度は異常だよ。まさに神の工芸品。……これで鼻をほじるなんて、ダイヤモンドで爪を研ぐような贅沢だね」
「放せよ! 贅沢でもなんでもない、ただの呪いだ!」
「ふふ、そんなに照れなくてもいいじゃないか。……ヴォルガッシュ、あんたはこの地下を『牢獄』だと思ってるかもしれないけど、ここはいいよ。誰もあんたの指を笑わない。……だって、ここにいるのは全員、神様に愛されすぎて壊れちゃった連中なんだから」
ミレーヌは少しだけ寂しそうに笑うと、また魔導書に目を落とした。
「……ま、よろしく頼むよ。不審者同士、仲良くやろうじゃないか」
俺は、そっと目を閉じた。
家訓、第3条。――『地獄へ着いたら、まずは同居人と肉を焼け』。
俺はアイリスから受け取っていた食料袋を取り出した。
「……ポチ、ミレーヌさん。肉、焼こうか。少しはあるんだ」
「うむ! 焼肉パーティーだ!」
「お、気が利くねえ。じゃあ、私は火を熾してあげるよ。……ちょっと待ってて、今から靴下を脱ぐから。火力が上がるよ」
「靴下でいい! 靴下までで止めてくれ!!」
俺の地下生活初日は、肉の焼ける香りと、同居人の脱衣を止める絶叫と共に更けていった。




