第4話:受付嬢アイリスの宣告。今日から貴方は地下暮らしです
翌朝。俺はポチを連れて、街で一番大きな冒険者ギルドの門を潜った。
昨日の今日だ。街を救った英雄として、金一封、いや、レガシー家再興のための男爵位くらいは用意されているかもしれない。
「……あの、エドバルトを退治したヴォルガッシュですが」
受付に向かって名乗った瞬間、ギルド内の喧騒が止まった。
冒険者たちが一斉に、自分の鼻と、ズボンのベルトを押さえて距離を取る。なぜか女性冒険者からは「軽蔑」を通り越して「怯え」の視線が突き刺さる。
「……次の方、どうぞ」
静寂を切り裂くような、氷のように冷たい声。
カウンターに座っていたのは、銀縁眼鏡の奥で「絶対零度」の瞳を光らせる美女、アイリスだった。
「あ、アイリスさん。昨日の件で、報酬の受け取りに……」
「ああ、貴方ですか。**『軍団百人を一瞬で脱がせて土下座させ、首領の鼻腔をオリハルコンで蹂躙した』**という……歩く公然わいせつ罪(予定)の方は」
「言い方! あれは街を守るための聖なるスキルだよ!」
「神もたまには寝ぼけるようですね。はい、ギルドカードを出してください。更新します」
彼女は俺のカードを、ピンセットでつまむようにして受け取ると、魔法の刻印機に放り込んだ。
カシャリ、と冷たい音が響く。
「更新完了です。……ふふ、おめでとうございます。貴方の破廉恥……いえ、輝かしい功績に見合った『称号』が刻まれましたよ」
アイリスが、本日初めて微笑んだ。それは、獲物を仕留めた処刑人の笑顔だった。
【称号】 鼻腔の開拓者
「……書き換えろ。今すぐ、もっとカッコいいやつに書き換えろぉぉ!!」
「却下です。システムは貴方の『指先の動き』を正当に評価しました。さて、報酬の件ですが……住民たちの強い要望(苦情)により、現金支給は凍結。代わりに、特別な『居住区』を用意しました」
「……居住区?」
アイリスさんは、カウンターの下から錆びついた巨大な鍵を一本、放り投げた。
「西区の最果てにある、地下備蓄倉庫です。そこには貴方と同様に、能力が尖りすぎて社会に居場所がない『隔離対象』の方々がいます。今日からそこが貴方の家です。いいですね?」
「それ、ただの地下牢だろ!!」
「いいえ、『特別個室(地下)』です。あ、そこの柴犬もどきさん。貴方には特別に、ギルド提携の肉屋から出る端肉を毎日支給しましょう」
「……!! アイリスよ、ヌシは女神か? ポチ、今日からこの女を『肉の主』と認めるぞ!」
ポチが、裏切り者の顔でアイリスに尻尾を振った。
「では開拓者様。速やかに地下へ移動を。日の出ているうちは、絶対に地上へ出ないでくださいね。子供たちの教育に悪いので」
こうして俺は、光り輝く騎士の道から、湿った地下倉庫の住人へと転落した。




