第3話:漆黒の騎士、未知の恐怖に震える
山を降り、ようやく街の正門が見えてきた頃。俺の耳に届いたのは、人々の悲鳴と、不吉な金属音だった。
「はーっはっは! 我は暗黒騎士エドバルト! この街の富と、ついでに旨い酒をすべて略奪してくれよう!」
漆黒の鎧に身を包み、巨大な魔剣を振るう男。王国の指名手配犯・エドバルト率いる百人の重装歩兵軍団が、街の守備隊を圧倒していた。騎士団長すら地に伏し、街は絶体絶命の危機に瀕している。
「主よ、騒がしいな。あれを倒せば、肉は手に入るのか?」
「……ああ。あれを倒せば、英雄として多額の報酬が出る。ポチ、肉食べ放題だぞ!」
俺は覚悟を決めた。没落したレガシー家の誇りを見せる時は今だ。
俺と、柴犬サイズのポチは、混乱の渦中へと躍り出た。
「そこまでだ、エドバルト! 街の平和を脅かすなら、この俺が相手だ!」
「……何だ、その妙なトカゲと、情けない顔の小倅は。……者共、片付けろ!」
エドバルトの号令で、百人の兵士が一斉に槍を構えて突撃してくる。
俺は覚悟を決め、家訓を叫んだ。
「レガシー家奥義! スキル発動――『全自動・土下座』!!」
俺が地面に手をつこうとした瞬間、神授の権能が「対象:前方すべての敵」として凶悪に発動した。
ズドォォォォォォォォンッ!!
「「「ぶべぇっ!!?」」」
突撃していた百人の軍団が、まるで見えない巨大なプレス機に押されたかのように、一斉に地面へ叩きつけられた。
ただ転んだのではない。全員が完璧な「五体投地」の姿勢で固定され、額を石畳にめり込ませている。これぞ没落騎士家が生き残るために磨き上げた、究極の謝罪の強制。
さらに、スキルの副次効果が追い打ちをかけた。
パパパパパァァァンッ!!
「「「なっ……あぁぁぁぁ!!?」」」
強制土下座の衝撃で、兵士たちの鎧のベルトや服のボタンが、一斉に弾け飛んだ。
道端に突如として現れた、半裸で土下座する百人の屈強な男たち。あまりの羞恥と不条理に、兵士たちの心は一瞬でへし折れた。
「な、何だと……!? 指一本触れずに、我が精鋭たちの服を剥ぎ、地面に這いつくばらせるだと……!? 貴様、どれほどの変態……いや、策士だ!!」
戦慄するエドバルトの懐に、俺は「オリハルコン級」の強度を誇る指先を先頭に、光速で踏み込んだ。
「次はお前だ! 『超高速鼻ほじり』!!」
「――がふっ!?」
兜の隙間を寸分違わず貫き、俺の指先が、彼の鼻腔の「一番触れてはいけない最深部」にコンタクトした。
「あああああああ! 抜いて! 早く抜いてぇぇぇ! 俺の中の暗黒騎士としての矜持が、音を立てて崩壊してゆくぅぅぅ!!」
マッハの振動で鼻腔を蹂躙される屈辱。
一分後、鼻を真っ赤に腫らし、部下を全員「全裸同然で首が回らない状態」にされたエドバルトは、涙ながらに敗走していった。
……勝った。街を救ったのだ。
しかし、背後から聞こえてきたのは、歓声ではなく、衛兵たちのガチガチと震える歯の音だった。
「……見たか。あの一振りで、百人の服を消し飛ばしたぞ」
「鼻を……鼻を狙われるんだ。防具なんて意味がない……」
「あれは英雄じゃない。……歩く人道的兵器だ」
助けたはずの住民たちが、一斉に自分の鼻と服を押さえて逃げていく。
俺の指先が、朝日を浴びてオリハルコン特有の鈍い輝きを放っていた。
「主よ……ヌシ、やはり我の主をやるだけあって、相当な変態だな」
「……ポチ、頼むから今は黙っててくれ」
俺は、あまりにも不名誉な「勝利」を手に、静まり返った街へと足を踏み入れた。




