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「神速の指先」を聞き間違いで授かった僕が実は最強だった件  作者: ギア丸


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第29話:妹リーネの誘拐。黒幕のさらなる罠

 舞踏会の興奮も冷めやらぬ翌朝。地下倉庫にリーネの明るい歌声が響くことはなかった。

 テーブルの上には、禍々しい魔力を放つ「黒い羽根」と、一通の手紙が置かれていた。

『女神の指先を持つ者よ。妹を返してほしくば、北の「絶壁の魔城」へ来い。……一人でな』

「……ヴォルガッシュ様。これはハルパスを操っていた上位魔族、堕天のサリエルの紋章です。ハルパスが浄化(掃除)されたことで、本腰を入れてきたのでしょう」

 アイリスの報告に、俺の右指がピクリと震えた。それは怒りか、あるいは指先が勝手に「敵の鼻」を求めているのか。

「お兄様を……リーネをバカにする奴は許さない。アイリスさん、一人で行けって言われたけど……」

「そんな言葉、守る必要はありませんね。ハルパス、ポチ様、ミレーヌ様。……出撃準備を」

 「御意!!」

 ハルパスが雑巾を投げ捨て、魔族の真の姿を取り戻す。ポチが銀竜として咆哮し、ミレーヌが「今夜は寝間着も置いていくよ!」と、最強の戦闘形態(完全な布なし)へ移行しようとしたのを、アイリスが全力で止めた。

 北の「絶壁の魔城」。そこは物理的な入り口が存在しない、四方を絶壁に囲まれた浮遊城だった。

「ククク……来たか、ヴォルガッシュ。妹はここの最深部、魔力の檻の中にいる。助けたければ、我が精鋭騎士団を――」

 サリエルが空中で勝ち誇ったように笑う。だが、俺は城の門すら探さなかった。

「サリエル。お前は大きなミスを二つ犯した。一つはリーネを泣かせたこと。……そしてもう一つは、この城の『構造』だ」

「……何だと?」

「この城の石積み……わずかに隙間があるな。俺の指なら、そこからすべてを『掻き出せる』」

 俺はポチの背から飛び降り、空中から城の基部へと右指を突き立てた。

「スキル発動――『超高速鼻ほじり・城郭解体キャッスル・クリーニング』!!」

 ズババババババババババババッ!!!!!

 本来は鼻の奥の異物を取るための超精密振動。それが今、城の石材と石材を繋ぐ魔力結合部を「鼻糞」のごとく認識し、一瞬で粉砕・抽出していく。

 

「な……バカな!? 我が魔城を、ただの『指先』で解体しているというのか!?」

「さらに、重力に逆らう生意気な城は、地面にひれ伏せ! 『全自動・土下座』――落城フォール・ダウン!!」

 ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!

 浮遊していた魔城が、巨大な重力波に押し潰され、文字通り「土下座」をするような形で地上へと叩きつけられた。城壁が崩れ、瓦礫の中からリーネが閉じ込められた檻が露出する。

「お兄様ーーっ!! 鼻の形がカッコいいですわーーっ!!」

「リーネ! 今助けるぞ!」

 瓦礫の中からサリエルが這い出してくる。その顔には、ハルパス同様「鼻」がない……と思われたが、俺の目は逃さなかった。

「……サリエル。お前、ハルパスと違って『耳』があるんだな」

「それがどうした!? 耳に私の秘孔があるというのか!?」

「いや。……耳の穴っていうのは、鼻の穴の次に行儀が悪い『隙間』なんだよ。……女神様、今日だけはこの神聖な指、**『耳かき』**として使わせてください!!」

「よ、よせ! 来るな! 私は耳掃除は自分でやる派だぁぁぁ!!」

 ヴォルガッシュの指先が、怒涛の勢いでサリエルの耳腔へと迫る。

 シリアスな空気は、城の崩壊とともにどこかへ消え去り、北の台地には再び「究極の浄化」に伴う絶叫が響き渡ろうとしていた。

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