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「神速の指先」を聞き間違いで授かった僕が実は最強だった件  作者: ギア丸


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第2話:伝説の神竜、肉の香りと土下座に屈する

 神殿を追い出された俺は、山の中にいた。

 理由は一つ。この『鼻ほじスキル』を授かったまま実家に帰り、期待に満ちた家族の顔を見る勇気がなかったからだ。


「……腹減ったな。もういい、これを食べて野垂れ死んでやる」


 俺は、没落家のなけなしの財産である『最高級霜降り肉のくん製』を取り出した。いつか騎士として叙勲された時に食べようと秘蔵していたものだが、今の俺に「騎士道」など残っていない。あるのは「鼻道びどう」だけだ。


 だが、その時だった。


「――ヌシか。美味そうな匂いをさせているのは」


 地響きと共に、巨大な影が空を覆った。

 白銀の鱗を輝かせ、山一つを飲み込みそうな巨体。古の伝承に刻まれた、天災の化身――伝説の神竜だ。


「ひっ……!」


「我は三百年ぶりに目覚めた。腹が減っている。ヌシとその肉、まとめて我の糧となるが良い」


 圧倒的な威圧感。これが本物の『屈服』の力か。


 俺は恐怖で足がすくみ、反射的に――レガシー家が体に刻んだ「生き残るための生存戦略」が発動した。


「くるな! スキル発動!! 『全自動・土下座』!!」


 本来は自分を守るための、あるいは謝罪するためのスキル。

 だが、神の悪戯によって進化したその権能は、伝説の竜さえも対象に選別した。


 ズドォォォォォォォォンッ!!


「なっ、何事だぁぁぁぁぁぁ!!?」


 神竜の巨体が、見えない巨大な掌に押し潰されたかのように、地面へと叩きつけられた。


 ただの着地ではない。首が直角に曲がり、額が岩盤を粉砕し、完璧な「五体投地」の姿勢で固定される。


「我の頭が……上がらぬ! 抗えぬ! この我に、強制的に頭を下げさせるとは……ヌシ、何者だ!?」


 神竜は鼻先を土に埋めたまま、必死に咆哮する。


 だが、その鼻先――ちょうど土下座で固定された位置に、俺が落とした『肉のくん製』が転がっていた。


「……あ」


 神竜の動きが、ピタリと止まった。

 銀色の大きな鼻の穴が、ピクピクと、必死にその肉の匂いを嗅いでいる。


「……待て。人間よ。ヌシ、この肉を我に献上するつもりか? これほどの美味……よかろう、我を力(と肉)で屈服させたこと、認めてやる。さあ、我を呼ぶが良い! 我が真名は――『ポリュルク・ハイドラ・アル・チヴァル』! 三千年の時を超え、今ここに復活せり!」


 神竜は土下座したまま、誇らしげに咆哮した。

 だが、絶望のどん底にいる俺には、そんな長い横文字を覚える余裕なんて一ミリもない。


「ポリュ……なんだって?」


「ポリュルク・ハイドラ・アル・チヴァルだ! 忘れるなよ!」


「長えよ。ええと……**『ポ』リュルクの……アル……『チ』ヴァル……。よし、今日からお前は『ポチ』**だ」


「……は?」


「ポチ。呼びやすいし、覚えやすい。最高だろ?」


「待て! 我の真名は神々の言語で『天を裂く銀の雷光』という意味が――」


「はいはい、ポチ。ほら、肉だぞー。お座り」


「………………(パクッ)………………。……ぬぅ、この『ポチ』という響き……短縮された中にも、我の強大さが凝縮されている気がしてこなくもない。うむ、今日から我が名はポチだ!」


「(こいつ、チョロすぎる……)」


 こうして、俺の隣には、肉の匂いにつられた銀色の「自称・ポチ」が居座ることになった。


「主よ、仕方ない。いつまでもこんな山の中にいても、次の肉は降ってこぬぞ。我のポテンシャルを三頭身ほどに凝縮してやろう。街とやらに案内せよ」


 ポチがそう言うと、巨体は眩い光に包まれ――柴犬サイズの、ポテッとしたミニドラゴンに姿を変えた。


「街に戻るのか……。いや、でも手元の肉も尽きたしな……」


 俺は、柴犬ドラゴンのポチを連れ、山を降り始めた。

 伝説の神竜を(肉と土下座で)従えた英雄として、街に凱旋するつもりで。


 ――だが、その正門前で、街を蹂躙する暗黒騎士エドバルトの軍団が待ち構えているとは、この時の俺はまだ思いもしなかった。

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