第28話:王都のダンスパーティー。ステップは『土下座』の応用!?
レガシー家の名誉が部分的に(鼻ほじり騎士として)回復した結果、王都で開催される伝統ある「白銀の舞踏会」への招待状が届いた。
「ヴォルガッシュ様、これは絶好の機会です。一流貴族たちの前で、レガシー家の健在をアピールしましょう。……いいですね、踊る時は『指』を鼻に近づけないように」
アイリスに厳しく釘を刺され、俺は窮屈な礼装に身を包んだ。ミレーヌは「布が多いのは耐えられない」と、透け感の限界に挑むドレス(ハルパスが魔力で補強)を着て、ポチは「高級肉の気配がする」という理由で、首輪を蝶ネクタイに変えて同行した。
きらびやかな会場。だが、俺には致命的な欠点があった。
ダンスなんて、一度も練習したことがない。
「……困ったな。パートナーを組んだ伯爵令嬢が、期待に満ちた目でこっちを見てる」
「お兄様、大丈夫ですわ! お兄様のあの指の動きなら、ダンスのステップなんて朝飯前ですわ!」
リーネが能天気に励ましてくれるが、俺の指は「突く」か「掻き出す」か「磨く」ことにしか特化していない。
音楽が始まった。令嬢の手を取り、フロアの中央へ。
(マズい、次のステップが分からない。このままじゃ転んで恥をさらす――!)
極限のプレッシャーの中、俺の脳が「生存本能」として一つの回答を導き出した。
「……そうだ。ダンスとは、重心の移動と姿勢の制御。なら、あのスキルを『超小刻み』に発動すれば……!」
俺は令嬢の手を握ったまま、心の中で叫んだ。
「スキル発動――『全自動・土下座(微弱・高速連射モード)』!!」
本来は地面に額を叩きつけるための強烈な重力魔法。それを俺は、0.01秒単位で特定の方向にだけ、**「膝が曲がる寸前」**の出力で放ち続けた。
ガガガガガガガッ!!!
俺と令嬢の体は、見えない重力に引かれるように、正確無比なステップを刻み始めた。
一歩踏み出すたびに「カクンッ」と膝が折れそうになるが、それを逆方向の土下座慣性で打ち消し、無理やり円を描く。
「……ま、まあ! ヴォルガッシュ様、なんて独創的なステップですの! まるで重力そのものを操っているような力強さ……!」
令嬢は、自分が**「一秒間に十回ほど土下座しかけている」**ことにも気づかず、高速で振り回されるスリルに頬を染めている。
「見てなよ、これぞレガシー家秘伝……**『千手土下座』**のワルツだ!!」
俺の指先が、空中で複雑な軌道を描く。指の動きに合わせて、フロアの重力が局所的に変化し、俺たちはまるで氷の上を滑るように、あるいはコマのように超高速回転を始めた。
「すごいよヴォルガッシュ! 遠心力で私のドレスの裾が全部吹き飛んで、最高の解放感だ!」
横で見ていたミレーヌが、自分も踊り始めようと服を脱ぎ始めた。
「止めろミレーヌ! ハルパス、布壁を展開しろ!」
「御意、師匠! 全身全霊で隠します!」
会場は騒然となった。
ヴォルガッシュと令嬢のペアは、あまりの高速回転により、もはや**「銀色の竜巻」**と化していた。
「な、なんだあのダンスは!? 優雅さはないが、抗えない迫力があるぞ!」
「見てみろ、彼らが通った後の絨毯が、土下座の圧力でアイロンをかけたようにピカピカだ!」
最後の一音。
俺はスキルを最大出力で解放し、フィニッシュを決めた。
「『全自動・土下座』――終幕!!」
ズドォォォォォンッ!!
俺と令嬢は、完璧な美しさで(床にめり込みながら)膝をついた。
会場には静寂の後、割れんばかりの拍手が巻き起こった。
「……ヴォルガッシュ様。……令嬢の腰の骨が無事で良かったです。あと、貴方の足元に直径一メートルのヒビが入っています」
アイリスが、冷めた目で「損害賠償」のメモを取り始めた。
「いいじゃないか。名誉はアピールできたろ?」
「ええ。王都の貴族たちの間で、新しい流行が生まれましたよ。『土下座ダンス』という、あまりにも腰に負担のかかる奇習が……」
こうして、ヴォルガッシュの不名誉なスキルは、社交界という最も洗練された場所さえも「屈服」させてしまった。
帰り道、ポチが「ヌシよ、あのステップの途中で落ちた鴨肉、美味かったぞ」と満足げに笑っていたのが、この夜唯一の「騎士らしい」収穫であった(?)。




