第22話:地下室のWi-Fi(魔導通信)が繋がらない! 通信環境を指で直せ
地下倉庫が「最強の秘密基地」と化してから数日。住人たちを絶望の淵に叩き落とす事件が発生した。
「……繋がらない。私の『魔導水晶板』が、どこにも繋がらないよぉ!」
ミレーヌが床を転げ回り、発狂していた。彼女が楽しみにしていた、王都で流行中の「イケメン魔導師の24時間ライブ配信」が、ノイズまみれで止まっていたのだ。
「主よ、我の『オンライン肉オークション』も更新できぬ! このままでは、伝説の黄金牛が他者の手に渡ってしまう!」
「……地下を快適にしすぎて岩盤を補強したせいか。地上の魔導電波が遮断されてるんだな」
アイリスまでもが、眼鏡を曇らせて震えていた。
「……マズいです。これでは、ギルド本部に内緒で進めている『乙女ゲームの新作ダウンロード』が……進捗4%で止まっています」
「お前ら、そんな理由で絶望すんなよ! ……でも、確かに俺の『鼻腔ケア用品のネット通販』も止まってるのは困るな」
一同の利害が一致した。地下の快適さを維持しつつ、通信環境を改善する。それは、このパーティにとって「魔火の消火」以上に重要な任務となった。
「ヴォルガッシュ、あんたの指でなんとかしなよ! 通信っていうのは、繊細な魔力の波なんだ。あんたの超高速振動なら、その波を増幅できるはずさ!」
「無茶言うな! ……いや、待てよ。王都のメイン魔導サーバーは、この地下からそれほど遠くないはずだ」
俺は地下倉庫の壁の一点を見つめた。
ここを数百メートル掘り進めば、王都全体の通信を司る「巨大魔導水晶」の基部に到達するはずだ。
「よし、やるぞ。スキル発動――『超高速鼻ほじり・地脈穿孔』!!」
ズババババババババババババッ!!!
俺の右指がドリルと化し、強固な岩盤を火花と共に削っていく。鼻腔の奥にある、どんなに固い「アイツ」をも掻き出す俺の指先にとって、土砂や岩石など柔らかい綿あめも同然だ。
「開通したぞ! 通信ケーブルが見えた!」
俺は掘り当てた魔導光ファイバーに、直接「指」を突っ込んだ。
「スキル発動、『超高速振動・信号増幅』!!」
俺のオリハルコンの指先が、光速でファイバーの魔力信号を弾く。
すると、地下倉庫に置いてあった全員の魔導端末が、凄まじい音と共に起動した。
「キ、キターーー! 画質が4K(魔界解像度)を超えてる! 配信者が目の前にいるみたいだよ!」
「おおお! オークションの更新速度が光を超えた! 我の入札が誰よりも速いぞ!」
だが、俺が「指」で直接信号をいじりすぎた結果、予期せぬ不具合が発生した。
「……あ、あれ? ヴォルガッシュ様、大変です! 貴方の指の振動が混ざって、王都中の通信がバグっています!」
アイリスが指し示した端末には、衝撃の光景が映っていた。
王都中の魔導掲示板や、他人の通信端末の画面に、**「巨大な人差し指」のアイコンが強制的に表示され、さらに全ての動画の音声が「ズボォッ……ズボォッ……」**という鼻掃除の音に差し替えられていたのだ。
「……王都の全住民が、今、貴方の鼻掃除の音をBGMに生活しています」
「恥死するわ!! すぐに止める、今すぐ止めるから!!」
慌てて指を抜いた瞬間、地下倉庫の通信は元の弱々しいものに戻った。
だが、その日の王都のニュースは「謎の指先ハッカーによる電波ジャック」で持ちきりとなり、不名誉な伝説がまた一ページ書き加えられることになった。
「……ま、とりあえずダウンロードは終わったし、いいんじゃない?」
ミレーヌは満足げに、画面の中のイケメンを見つめている。
「主よ。次の肉オークションの時は、また指を突っ込め。我の勝利のために」
「二度とやらねえよ!!」
俺の指は、ついに通信インフラという「目に見えない世界」までも、不名誉な形(鼻掃除音付き)で支配してしまった。
地下生活の快適さと引き換えに、俺の社会的な死は、いよいよ取り返しのつかないところまで来ていた。




