第21話:「地下室、意外と快適だな……」地上に出たくなくなる開拓者
魔火の災厄から一週間。西区の住民たちは、救世主であるヴォルガッシュたちを地上に迎え入れようと、盛大なパレードの準備を進めていた。
アイリスは誇らしげに、再興されたレガシー家の当主復帰と、地下倉庫からの解放令状を手に、いつもの鉄扉を開けた。
「ヴォルガッシュ様、おめでとうございます! ついに貴方の名誉は回復されまし――」
扉の先に広がっていたのは、カビ臭い倉庫ではなく、**「超近代的な魔導スイートルーム」**だった。
「あ、アイリスさん? 靴脱いで上がってくれよ。そこ、ポチが磨き上げたオリハルコン床だから」
そこには、俺の『超高速指先研磨』によって鏡面仕上げになった床と、ミレーヌの魔力によって常時24°Cに保たれた完璧な空調、そしてポチの銀竜の吐息で加湿された、極上の空間が広がっていた。
「……何ですか、この空間は。貴方は今すぐ地上に出て、騎士団の副団長に就任するはずでは?」
「いや、断った。地上は暑いし、視線が痛いだろ? ここならミレーヌがどれだけ脱いでも『内装の一部』で済むし、ポチも巨大化したまま寝られるんだ」
ミレーヌは、もはや服を着るという概念を完全に放棄し、魔導書を枕に、最高級のシルク(俺が指先で極細に編み上げた特製品)の上でゴロゴロしている。
「アイリス、あんたもこっちにおいでよ。この地下、私の結界で地上からの騒音が一切遮断されてるんだ。究極のデトックスだよ」
「主よ、地上の肉は硬い。我のブレスで低温調理したこの地下熟成肉を食え。飛ぶぞ」
ポチが、銀竜の姿のまま器用に前足でステーキを差し出してくる。
「ヴォルガッシュ様……正気ですか? 妹のリーネ様も待っているんですよ!」
「リーネなら、さっきまでそこで『地下アイドル』の練習してたぞ。ここ、響きが良いからって」
見れば、倉庫の隅に設置された特設ステージで、リーネが「お兄様プロデュース」の衣装を着て歌っていた。
「……ダメです。こんな、世界最強の能力を無駄遣いしたニート養成所、認められません! さあ、今すぐ地上へ!」
「嫌だね! 俺のこの指は、今や『自動肩揉み機』としてミレーヌの専属なんだ! スキル発動――『超高速・指圧マッサージ』!!」
「あぁぁ……そこ、そこだよヴォルガッシュ……。王都の高級スパより効くねぇ……」
アイリスは、頭を抱えて座り込んだ。
かつては忌み嫌われた「不名誉な指先」も「露出癖」も「食いしん坊のトカゲ」も。この地下倉庫という閉鎖空間では、お互いの欠点を補い合う、完璧なエコシステムへと進化してしまったのだ。
「……分かりました。なら、私も決めました」
アイリスが眼鏡を外し、制服の第一ボタンを外した。
「私も、今日からここを『ギルド地下出張所』として私物化します。地上の事務仕事なんて、やってられません。……ヴォルガッシュ様、私にもマッサージを。……三時間コースです」
「……ギルドの受付嬢が真っ先に闇堕ちしたぞ、おい」
こうして、英雄たちは地上への帰還を拒否し、地下倉庫を「王国で最も快適な魔窟」へと変貌させていった。
彼らの伝説は、いつしか『地下に住む、絶対に地上に出てこない最強の不審者たち』として、別の意味で語り継がれることになるのだった。




