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「神速の指先」を聞き間違いで授かった僕が実は最強だった件  作者: ギア丸


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第20話:地下倉庫の英雄たち。街を焼く魔火を消せ

 それは、王都の保守派貴族たちが放った「最終宣告」だった。

 地下倉庫の通気口から投げ込まれたのは、一度燃えれば水では消えない禁忌の魔導兵器『煉獄の火種』。

 一瞬にして、地下倉庫は紅蓮の炎に包まれ、その火の手は地上――西区の住宅街へと噴き出した。

「なっ……なんて火だ! 魔法で消そうとしても、逆に魔力を喰らって燃え広がっていくぞ!」

 駆けつけたアイリスが、必死に消火魔法を唱えるが、炎は嘲笑うように彼女の杖を焼き焦がす。

「お兄様! 街が、街が燃えてしまいますわ!」

 避難する人々の悲鳴。逃げ場を失う子供たち。その光景を前に、地下倉庫の住人たちが動き出した。

「……やれやれ。アイリス、下がってな。これは並の魔導師の手に負える代物じゃないよ」

 ミレーヌが、いつものマントを放り捨てた。……だが、そこにはいつもの羞恥心も、冗談めかした露出狂の顔もなかった。

 彼女の全身に、見たこともないほど濃密な魔紋が浮かび上がる。

「ミレーヌ……お前、まさか」

「ヴォルガッシュ、あんたに言ったろ? 私は『効率』を極めたんだ。……全てを脱ぎ捨てて、世界を無に還す。それが私の本当の魔法だよ」

 ミレーヌが宙に舞う。その瞬間、彼女の周囲の空気が絶対零度へと凍りついた。

 『全パージ・凍てつく銀世界アブソリュート・ゼロ』。

 炎の熱量を、彼女の剥き出しの肌が直接「魔力」として吸収し、極大の氷結へと変換していく。街を焼き尽くさんとした魔火が、一瞬で凍りついた。

「ヌシら、我を忘れてもらっては困るぞ」

 ポチが吼えた。その小さな柴犬の体が膨れ上がり、地下倉庫を突き破らんばかりの巨体へと変貌する。銀の鱗が月光を反射し、伝説の『銀竜』がその姿を現した。

 ポチは大きく息を吸い込み、街を覆う煙をその肺にすべて吸い込んで、上空へと吹き飛ばした。

「……最後は俺の番だな」

 凍りついたとはいえ、魔火の残滓はまだ地下の深層で爆発の機会を窺っている。

 俺は、炎の核となっている「火種」の目の前に立った。

「……不名誉な指だと笑われてもいい。変態騎士だと蔑まれてもいい」

 俺は右の指先を、灼熱の核へと突き刺した。

 オリハルコンの指が、超高熱に焼かれ、赤く染まる。激痛が走るが、俺は指を止めない。

「俺の指は、ゴミを掻き出し、鼻を掃除し、誰かの息苦しさを取り除くためにあるんだ!!」

 「スキル発動――『超高速・真空抽出ノーズ・ドレイン』!!」

 指先を光速で回転させ、炎のエネルギーだけを一点に集中させ、自身の体内、そして大地へと逃がす。さらに、左手を掲げ、街全体の「炎」と「崩落」に向かって叫んだ。

「『全自動・土下座』――範囲限定・大地鎮祭!!」

 ズドォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!

 街全体を揺るがす衝撃。

 暴れ狂っていた火災のエネルギーが、無理やり地面へと「屈服」させられ、鎮火した。崩れかけていた建物も、スキルの固定力によって、そのままの形で地面にへばりつくように固定され、倒壊を免れた。

 ……静寂が訪れた。

 火は消え、煙は晴れた。

 そこには、ボロボロになりながらも、街を守り抜いた「地下の住人たち」の姿があった。

「……はは、やったな。ミレーヌ、ポチ……」

 俺は力尽き、膝をついた。右の指は焼き付いたように熱い。

 住民たちが、恐る恐る近寄ってくる。彼らの目には、もう「不審者」を見る色ではなかった。

「……助けてくれたのか? あの『鼻ほじり』の騎士様が……」

「あの脱衣魔導師も……街を守るために、あんな姿で……」

 アイリスが、涙を浮かべながら俺の元へ駆け寄ってきた。

 彼女は自分の上着を脱ぎ、ボロボロの俺の肩に、そして全力を出し切ったミレーヌの体に、そっと掛けた。

「……ヴォルガッシュ様。ミレーヌ様。……そしてポチ様。……お疲れ様でした。……貴方たちは、最高の英雄です」

 俺は、ぼんやりとした視界の中で、朝焼けを見上げた。

 没落した名誉。授かった不名誉な力。

 それでも、この汚れた指が救った命がある。それだけで、俺の騎士道は報われた気がした。

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