第19話:王都からの刺客。最強の暗殺術
レオポルド王の像を「美容整形」した一件は、王都の保守派貴族たちの逆鱗に触れた。
「我が国の象徴を弄んだ不審者を抹殺せよ」――放たれたのは、王都の裏社会で恐れられる暗殺拳の使い手、『十指の葬儀屋』のゼノンだった。
その夜、地下倉庫の静寂を切り裂き、黒い影が舞い降りた。
「……標的確認。没落騎士ヴォルガッシュ、死を賜れ」
ゼノンの指先が、闇の中で不気味に蠢く。彼の放つ『点穴暗殺術』は、相手の秘孔を突き、一瞬で内臓を破壊する一撃必殺の技だ。
「……誰だ? せっかくポチが寝て、ミレーヌも服を着て(寝落ちして)静かになったってのに」
「死ぬ者に名は不要。我が指先が、貴様の心臓を止める」
ゼノンが踏み込んだ。その指先は鋭く研ぎ澄まされ、空気を切り裂く。
だが、ヴォルガッシュの「指」は、その数倍の速度で「反応」した。
「遅いな。……スキル発動、『超高速鼻ほじり・カウンター掃射』!!」
キンッ! キンキンキンキンッ!!
暗闇の中で、指と指が激突する火花が散った。
ゼノンは驚愕に目を見開く。
(なっ……!? 我が点穴術の『突き』を、すべて指先で弾き返しただと!? しかも、この指の硬度は何だ……鋼鉄、いや、オリハルコンか!?)
ゼノンはさらに技を繰り出す。喉、目、心臓――急所を狙う指先の乱舞。
対するヴォルガッシュは、流れるような動作でそのすべてをいなしていく。
「貴様……この『指捌き』、どこで学んだ! 常に私の攻撃の『中心点』を捉え、最小限の動きで無力化する……。これは、失われた伝説の拳法『神指流』か!?」
「いや、ただの鼻掃除のコツだよ。相手の鼻腔のカーブに合わせて、一番抵抗が少ない角度で指を入れるだろ? その応用だ」
「……何だと? 究極の『脱力』と『進入角』を、鼻掃除で体得したというのか……! 恐るべき男だ!」
ゼノンは戦慄した。この男、戦いの最中だというのに、自分の「指先」しか見ていない。
そしてヴォルガッシュは、ゼノンの顔面に空いた「絶好の隙間」を見逃さなかった。
「終わりだ。……食らえ、『真・鼻孔貫通』!!」
「ぐっ、秘孔か!? どこだ、どこを突くつもり――」
ズボォッ!!
ヴォルガッシュの指先が、ゼノンの鼻の穴に深々と突き刺さった。
そのまま光速の振動が開始される。
「あ、あわわわわわわ!? 脳が……脳が洗われるぅぅぅ! 邪気が、私の暗殺者としての邪気が、鼻の奥から根こそぎ掻き出されていくぅぅぅ!!」
「仕上げだ、『全自動・土下座』!!」
ズドォォォォォンッ!!
ゼノンは地下倉庫の床に叩きつけられた。鼻からは未だかつてないほど綺麗な「魂の汚れ(鼻水)」を流し、その顔には暗殺者の険しさはなく、聖人のような安らかな微笑みが浮かんでいた。
「……負けた。指の、格が違いすぎる……。貴様こそが、真の『指の王』だ……」
ゼノンはそう言い残し、清々しい顔で去っていった。翌日から彼は暗殺者を廃業し、王都で「鼻うがい専門店」を開業したという。
「……ヴォルガッシュ様。暗殺者を『改心』させたのは評価しますが、なぜ地下倉庫の床に、あんなに『綺麗な鼻水』が散らばっているんですか」
アイリスが、防護服を着て現れた。
「俺に言うなよ。あいつが勝手に『悟り』を開いただけだ」
「ヌシよ。今の暗殺者の指、なかなか良い肉を掴みそうな形をしていたな」
寝ぼけたポチがアクビをする。
こうして、王都最強の暗殺術は、ヴォルガッシュの「鼻ほじ」という名の究極の平和主義(?)の前に屈した。
不名誉な指先は、今日も期せずして悪を絶滅させていた。




