第1話:神様、私の願いを『屈服』じゃなくて『鼻の穴』と聞き間違えてませんか?
十八歳の儀式の日。俺、ヴォルガッシュ・フォン・レガシーは、神殿の冷たい床に膝をついていた。
家の再興どころか、明日の米代まで背負った重大イベントだ。
(ついに、この時が来た……!)
俺、ヴォルガッシュ・フォン・レガシーは、神殿の冷たい床に膝をつき、必死に祈りを捧げていた。
かつては王国の北方を守護した名門レガシー家も、今や借金まみれの没落騎士家。現在の主な収入源は、父上が近所の商人に教えている「正しい土下座のやり方講座」の講師料だ。
だが、今日授かるスキル次第で、すべては逆転する。
俺は家訓に従い、額が地面にめり込むほどの勢いで頭を下げた。
「ヴォルガッシュ・フォン・レガシーよ。汝の願いを言え」
眩い光の中から、慈愛に満ちた女神の声が響く。
あまりの神々しさと、家の再興という重圧。俺の緊張は、この時すでにリミットを超えていた。
「は、はいっ! 敵を**屈服**させ、服を剥ぎ取るくらいの圧倒的な力を……ッ!」
噛んだ。人生で一番大事な場面で、思いっきり噛んだ。
しかも、緊張で声が裏返り、妙な掠れ方をしてしまった。
「……え? 敵の……『鼻を、ほじ(ほじ)』……? しかも、服を剥ぐなんて。汝、なかなかの変態ね」
「えっ? いや、いま何て――」
「いいわ。その独創的で少し不潔な願い、叶えてあげましょう。汝のその『指先』に魂を込めなさい」
女神が引き気味の笑顔を見せた瞬間、俺の右手に凄まじい熱量が宿った。
光が収まり、気がつくと俺は神殿の外に放り出されていた。
嫌な予感しかしない。俺は震える手で自身のステータスを展開した。
「頼む……『聖騎士』とか『破滅の剣』とか、せめてそれっぽい名前であってくれ……!」
浮かび上がった文字を、俺は十回は見直した。
【固有スキル:超高速鼻ほじり】
効果:対象の鼻腔に対し、光速に近い速度で指先を突っ込む。相手はあまりの衝撃と羞恥心により、三〇%の確率で意識が飛び、一〇〇%の確率で戦意を喪失する。
【固有スキル:全自動・土下座】
効果:周囲一〇メートルの生物に対し、強制的に五体投地をさせる。副次効果として、相手の着衣のボタンが数個飛ぶ。
「……終わった」
俺は天を仰いだ。
最強の騎士を目指して修行してきた俺の指先が、今、神によって「鼻の穴専用」にカスタマイズされてしまった。
おまけに、レガシー家が伝統的に行ってきた土下座まで、相手に強制するスキルに進化している。しかもなぜ服がはだけるんだ。
「これじゃ騎士じゃなくて、ただの変態不審者じゃないか……!」
ふと見ると、ステータスの備考欄に不穏な表記があった。
【身体部位特記事項:右手の指先】
硬度レベル:『オリハルコン級』。
※神の加護により、どれほど硬い鼻をほじったとしても突き指せず、爪の間には一切の汚れが溜まらない。
女神よりメッセージ:『汚れなき指先で、世界の鼻腔を救いなさい』
「救えるかぁぁぁぁ!!」
俺の絶叫が、静かな森に虚しく響き渡った。
試しに近くの巨大な岩に人差し指を突き立ててみると――ズブリ。
まるでお豆腐に指を突っ込むかのような手応えで、オリハルコン級の指先が岩を貫通した。
「破壊力だけなら……歴代最強かもしれない」
だが、この時の俺はまだ知らなかった。
この“オリハルコンの指先”が原因で、
・ギルドの受付嬢に危険人物扱いされ
・露出狂の天才魔導師に異様に気に入られ
・そして、伝説級の存在すら巻き込む大事件へと発展する
という、人生最大の地獄が始まることを。
……女神、責任取れ。




