第18話:王の彫像を修復せよ! 指で整形したら別人になった件
平和な地下倉庫に、アイリスが血相を変えて飛び込んできた。
「ヴォルガッシュ様! 緊急事態です。王都の広場にある『建国王・獅子心王レオポルド』の巨大石像の鼻が、経年劣化と鳥のフンの腐食で……ポロリと落ちました!」
「鼻がポロリ……? いや、石工を呼べよ。俺の出る幕じゃないだろ」
「石工のギルドは現在、隣国の城門修復に出払っています。三日後には王都から視察団が来るというのに! ですから――貴方のその指で、現場にある瓦礫を削り、鼻を再建してください。オリハルコンの指なら、大理石など粘土同然のはずです」
「俺に彫刻をやれってか!? 剣と指しか振ったことないぞ!」
「大丈夫です。彫刻とは、不要な部分を削ぎ落とす作業……すなわち、『巨大な鼻掃除』と同じことです」
「絶対違うだろ!!」
結局、特製肉一週間分という条件で、俺は夜の広場に立たされた。高さ十メートルのレオポルド王像は、鼻の部分だけがツルリと平らになり、威厳もへったくれもない状態だった。
「主よ。さっさと終わらせて肉を焼くぞ。我はレオポルドなど知らんが、美味い鼻にしてやれ」
「無責任なこと言うな……。よし、ミレーヌ、照明を頼む」
「任せな! 『脱衣・閃光』!!」
ミレーヌが靴下と手袋を脱ぎ捨て、サーチライト並みの光を像に照射する。
「よし、やるぞ……。スキル発動――『超高速鼻ほじり・彫塑』!!」
ズババババババババババババッ!!!
俺の右指が、残像となって石像の顔面を叩く。オリハルコンの指先は大理石をバターのように削り、凄まじい石粉が舞い散る。
(……待てよ。レオポルド王の鼻って、どんな形だったっけ? 確か、鷲鼻で、もっとこう……力強い感じだったよな?)
俺は「鼻の構造」に関しては、世界一の知識を持っている自負がある。
指先の感覚を研ぎ澄ませ、最高の通気性と、最高の造形美を追求していく。
「できた……! 完璧だ、これこそが『神の鼻』!!」
翌朝。アイリスと共に、完成した像を確認した俺たちは、絶句した。
そこには、筋骨隆々とした武骨な建国王の体に対し、不自然なほど**「高くて細くて、シュッとした超絶美形モデルの鼻」**が鎮座していた。
「……ヴォルガッシュ様。これは、何ですか」
「え? 鼻の黄金比を極限まで追求したんだけど。見てくれよ、この小鼻の曲線。呼吸効率120%だぞ」
「建国王は『戦場の獅子』と呼ばれた猛将ですよ。なんで鼻だけ、王都のカフェで詩を読んでそうな優男になっているんですか! 顔の上下でジャンルが違いすぎます!」
「うむ。主よ、これでは『獅子心王』ではなく『美鼻王』ではないか。強そうではないが、掃除はしやすそうだな」
さらに悪いことに、視察団が予定より早く到着してしまった。
「おお……これがレオポルド王の……って、な、なんだこの鼻はぁぁぁ!?」
視察団長が腰を抜かした。
「勇猛果敢な王が、なぜ鼻だけこんなに繊細なことに! まるで『戦いに疲れて、美容に目覚めた王』ではないか!」
「あ、いや……これは……」
アイリスが眼鏡を光らせ、とっさに嘘を吐いた。
「……これは、王が晩年に辿り着いた『平和への願い』を表現した最新の修復術です。荒々しさを捨て、美しさを重んじる……いわば、王の魂の整形です」
「魂の整形!? おお……なんと深い……。これぞ新時代の芸術か!」
視察団は、なぜか感動して帰っていった。
こうしてレオポルド王像は、後に「世界で最も鼻だけが美しい奇妙な名所」として観光地化することになった。
「……助かりましたが、ヴォルガッシュ様。二度と芸術には関わらないでください」
「俺だって嫌だよ。……指先が真っ白になっちまった」
俺の騎士道は、ついに「歴史的建造物の破壊(自称・修復)」にまで手を染めてしまった。
地下倉庫へ戻る道中、俺は自分の鼻を少しだけ高くして歩いたが、アイリスに無言で除菌スプレーをかけられた。




