第17話:ミレーヌの本気。脱ぎすぎて王立魔導院をクビになった理由
借金取りを追い払った日の夜。地下倉庫には珍しく、静かな時間が流れていた。
ポチは満腹で寝息を立て、リーネもアイリスに連れられて地上へ戻っている。
俺は、山積みの魔導書の前で、珍しく「着衣(といっても大きなマント一枚)」の状態で物思いにふけるミレーヌに声をかけた。
「……ミレーヌ。さっきの魔力、凄かったな。本気を出せば、あんな一瞬で人の精神を書き換えられるのか」
「……ああ、ヴォルガッシュ。驚かせたかい? あれが私の、特級魔導師としての真価さ。……もっとも、王立魔導院じゃ『呪われた禁忌』扱いだったけどね」
ミレーヌは自嘲気味に笑い、マントの端をギュッと握った。
「私の家系は、代々『魔力効率』を追求する一族だった。でも、私は生まれつき魔力回路が細くてね。普通に詠唱しても、並の魔法すら放てなかったんだ」
「……意外だな。お前がそんな苦労してたなんて」
「そこで先祖が見つけた答えが、『媒介の排除』。つまり、魔力の流れを妨げる『物質』を肉体から遠ざけることだった。布の一枚、糸の一本すら、私にとっては魔力を遮断する防壁になる」
ミレーヌは遠い目をして続けた。
「魔導院の卒業試験の日。私は、攻め寄せる魔獣の群れから王都を守るために……すべてを脱ぎ捨てた。髪留め一つ残さずね。その結果、私はたった一撃で魔獣の軍勢を消滅させた。……でも、同時に王都の数万人の視線に、その姿を晒してしまったんだ」
「…………」
「魔導院の老いた賢者たちは激怒したよ。『高潔なる魔導師が痴態を晒すなど言語道断』『公序良俗の破壊者』だとね。結果、私は『特級』の称号を剥奪され、この地下倉庫へ隔離された。……力を追求しただけなのに、おかしな話だろ?」
ミレーヌが少しだけ震えているのに気づき、俺は無言で彼女の隣に座った。
右手のオリハルコンの指が、魔導ランプの光を反射して鈍く光る。
「……似たようなもんだな。俺も『屈服』を願ったら『鼻ほじ』になった。力を尽くせば尽くすほど、周りから変態扱いされる。……でもさ、ミレーヌ」
俺は右の指先で、彼女の頭を軽く小突いた。
「お前が脱がなきゃ、あの時、王都の人間は全滅してたんだろ? だったら、お前は世界で一番気高い全裸だ。……俺は、お前のその『効率』を笑わないぜ」
「……ヴォルガッシュ。あんた、本当に不審者のくせに男前だね」
ミレーヌはクスッと笑うと、パッとマントを脱ぎ捨てた。
「よし! 元気が出たよ。やっぱり服なんて着てるもんじゃないね! ほら、魔力が溢れてきた。今の私なら、この地下倉庫を黄金の宮殿に変えることだってできるよ!」
「やめろ! 黄金にする前に、まず自分の『尊厳の壁』を構築しろ! アイリスさんが来たらまた怒られるぞ!」
「いいじゃないか! さあ、ヴォルガッシュ、私の魔力に合わせてあんたも指を振りな! 二人の変態(最強)が組めば、世界だって救えるさ!」
地下倉庫に、いつもの騒がしさが戻ってきた。
不名誉な指と、不名誉な全裸。
世間に背を向けられた二人は、暗い地下室で、誰よりも明るく笑い飛ばしていた。
「(……ま、たまにはこういう夜も悪くないか)」
俺は、指先に宿る神の悪戯を少しだけ誇りに思いながら、ミレーヌが放つ無駄に豪華な照明魔法の下で、ポチの寝顔を見つめていた。




