第16話:実家の借金取り現る。地下メンバーの『特殊な』取り立て対策
その日、地下倉庫の重い鉄扉が、これまで以上に乱暴な音を立てて開かれた。
現れたのは、仕立ての良いスーツを泥で汚した、目つきの鋭い三人組の男たち。手には、レガシー家の家紋が押された大量の借用書。
「見つけたぞ、ヴォルガッシュ! 没落貴族の残党がこんな穴ぐらに隠れていようとはな」
リーダー格の男、金貸しのガマ口が下品な笑みを浮かべた。
「親父が残した借金、利子込みで一千万ゴルドだ。払えないなら、その丈夫そうな体と『変な指』を研究機関に売り飛ばさせてもらうぜ」
「……実家の借金か。いつかは来ると思ってたが、よりによってこんな場所に来るとはな」
俺は、背後で肉を焼いていたポチと、脱衣の準備運動をしていたミレーヌをチラリと見た。
「おい、ヴォルガッシュ! 何を黙っている! この書類が見えないのか!」
「いや、書類は見えるんだが……お前ら、後ろに気付いてないのか?」
「後ろ? ああ、あの半裸の女と、太った犬か? そいつらも一緒に売り払って――」
その瞬間、地下倉庫の温度が氷点下まで下がった。
ミレーヌが、いつになく冷徹な、元「特級魔導師」の瞳で男たちを射抜いた。
「……今、私のことを何て言ったんだい? 売り払う? この私を、商品扱いするのかい?」
「ひっ!? な、なんだこのプレッシャーは……!」
「ミレーヌ、やめろ。こいつらはただの金貸しだ。……でも、ポチの方は止める自信がないぞ」
ポチが、ゆっくりと立ち上がった。その背後には、神竜としての本来の巨大な影が、魔導ランプに照らされて揺らめいている。
「……我を『犬』と呼んだな。よかろう。ヌシらの魂の重さ、肉の重さと引き換えに計ってやろうではないか」
ガマ口たちは腰を抜かした。だが、彼らはまだ「本当の地獄」を知らなかった。
「ヴォルガッシュ様。借金の取り立ては正当な権利ですが……ここはギルドの管理地。不法侵入は重罪ですよ」
アイリスが、いつもの銀縁眼鏡をクイと押し上げながら、影から現れた。
「アイリスさん! 助けてくれ、こいつら実家の……」
「ええ、分かっています。ですから、**『地下流の返済方法』**を提案して差し上げました。……さあ、ヴォルガッシュ様、ミレーヌ様。彼らに『おもてなし』を」
「おもてなし……? ああ、そういうことか」
俺はニヤリと笑い、右指を鳴らした。
「おい、金貸しども。一千万ゴルドなんて大金、すぐには払えない。……だから、まずは俺の指で、お前らの『心の詰まり』を掃除してやるよ」
「な、何を言っ――」
「スキル発動、『超高速鼻ほじり・強欲粉砕』!!」
ズボボボボボボボボボッ!!!!!
光速の指先が、ガマ口たちの鼻腔へと次々に突き刺さる。
ただの掃除ではない。強欲に凝り固まった彼らの意識を、鼻の奥から直接揺さぶり、脳を強制的に「多幸感と恐怖の混ぜこぜ」にする究極の精神攻撃だ。
「あ、あばばばばばばば! お金! お金がどうでもよくなるぅぅぅ! 鼻の奥が宇宙だぁぁぁ!!」
「さらに仕上げだ! ミレーヌ、やれ!」
「はいよ! 『脱衣詠唱・精神解放』!!」
ミレーヌが残りの布をすべて放り出した瞬間(リーネが慌ててカーテンで隠した)、圧倒的な魔力の波動が男たちを襲った。
視界には全裸の最強魔導師、鼻にはオリハルコンの指。そして耳元には神竜の咆哮。
「ひ、ひぃぃぃぃ! もういい! 借金なんて帳消しだ! むしろこの迷惑料として、手持ちの金を全部置いていくから、ここから出してくれぇぇぇ!!」
ガマ口たちは、涙と鼻水と変な汁を垂らしながら、借用書を破り捨て、財布の中身をすべて床にぶちまけて逃げ出した。
「……ふぅ。取り立て完了だな」
「主よ。あやつらが置いていった金で、明日は特上カルビだな!」
「ヴォルガッシュ様、お疲れ様です。……徴収したお金は、地下倉庫の修理費と、ミレーヌ様の新しい布代として没収しますね」
「俺の取り分は!?」
実家の借金は、こうして「精神的トラウマ」という形であっさりと解決した。
借金取りたちの間で、「西区の地下には、入った瞬間に尊厳を破壊される指使いがいる」という噂が広まり、以後、レガシー家に近づく悪徳業者は一人もいなくなったという。




