第14話:王都のエリート騎士来航。「地下のゴミ掃除共が」
鼻詰まり病を救った「歩く耳鼻科医」としての名声(?)が王都にまで届いた結果、最悪の客人が地下倉庫を訪れた。
ガチャン、と乱暴に鉄格子が蹴り開けられる。
現れたのは、白銀の装飾が施された豪奢な鎧に身を包んだ、王都第一騎士団の若手エリート・カイルとその一行だった。
「ふん……。カビ臭い。ここが、噂の『鼻ほじり騎士』とやらが飼われている肥溜めか」
カイルは鼻を高く鳴らし、汚物を見るような目で俺を見た。その後ろには、アイリスが苦々しい表情で立っている。どうやら王都の権力に押し切られたらしい。
「カイル様。彼は王国の危機を何度も救った功労者です。不作法は控えてください」
「黙れ、左遷された女狐が。……おい、ヴォルガッシュ。貴様のような没落貴族が、不浄な指で民の鼻を弄り、聖騎士の名を汚していると聞いてな。騎士団の面汚しだ。今すぐその指を切り落とし、平民として首を吊れ」
カイルは腰の聖剣を抜き、その切っ先を俺の鼻先に突きつけた。
「おい、カイルとか言ったな。俺の指はどうでもいいが、アイリスさんやここの連中を馬鹿にするのはやめろ」
「はっ! 露出狂の女と、太った柴犬と同居している変態が、騎士の誇りを語るか!」
カイルの足元で寝ていたポチが、片目を開けた。
「……主よ。こやつ、今我を『太った柴犬』と言ったか? 我はこれでも、神々の言語で『天を裂く……』」
「黙ってろポチ。……カイル、お前の言う『本物の騎士道』ってやつを見せてみろよ」
「いいだろう。貴様のようなゴミは、我が剣の一振りで塵にしてくれるわ!」
カイルが聖剣を振り上げた。王都の英才教育を受けたその剣速は確かに速い。……だが、俺の視界には、止まっているようにしか見えなかった。
俺の右指が、反射的に閃く。
「スキル発動――『超高速鼻ほじり・弾幕崩し』!!」
キンキンキンキンッ!!
目にも止まらぬ指先の連打が、聖剣の側面を叩く。オリハルコンの硬度を持つ指先の前では、王都の秘宝といえどもただの鉄屑だ。
一瞬で剣を弾き飛ばされたカイルが、呆然と立ち尽くす。
「な……!? 我が剣を、指先だけで……!? 貴様、どんな魔法を――」
「魔法じゃない。ただの、指先の反復練習だよ」
俺はさらに一歩踏み込み、左手を大きく天に掲げた。
「今度はこっちの番だ。エリートさん、地下の作法を教えてやるよ。……スキル発動、『全自動・土下座』!!」
ズドォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
地下倉庫の石畳が爆ぜた。
カイルとその従者たちは、まるで巨大な重力波に直撃したかのように、一寸の狂いもなく地面へと叩きつけられた。
「グ、ギギギ……体が動かぬ……! なぜだ、なぜ我が、このような下等な者に頭を下げて……!」
「いいか、カイル。俺の指は確かに不名誉だ。だが、この指は下水道のゴミを掻き出し、少年の命を救い、人々の呼吸を取り戻した。……一度も鼻の奥を汚したことのないお前の綺麗な剣より、俺はこの指を誇りに思ってるんだよ」
土下座を強いられたカイルの背中に、スキルの副次効果が追い打ちをかける。
パパパパパァァァンッ!!
カイルたちが着ていた、何百金もする特注の白銀鎧の継ぎ目が、一斉に弾け飛んだ。
地下倉庫の真ん中で、ピカピカのパンツ一丁で土下座をさせられるエリート騎士たち。
「あ、あああ……! 我が誇りが……第一騎士団の威厳がぁぁぁ!!」
「……ヴォルガッシュ様。やりすぎです。……でも、少しだけスカッとしました」
アイリスが、手元の書類で口元を隠しながら、クスクスと笑った。
「あぁ、いい眺めだね。王都の正装は随分と涼しそうだ」
ミレーヌが、いつのまにか自分の服(唯一のシャツ)を彼らの上に放り投げた。「恵んであげるよ」という屈辱のプレゼントだ。
「ヌシら、我を柴犬と呼んだ罰だ。……その頭、我の爪研ぎ台にしてやろうか?」
ポチが低い声で威嚇すると、カイルたちは泣きながら「申し訳ございませんでしたぁぁぁ!」と叫び、パンツ姿で王都へと敗走していった。
こうして、王都のエリート襲来は、またしても「全裸土下座」という不名誉な記録を上書きして幕を閉じた。
俺の騎士道は、もはや光り輝く道ではなく、汚泥と爆笑の中を突き進む唯一無二の獣道となっていた。




