プロローグ:光輝と絶望の境界線
この世界において、スキルとは『神の言葉』そのものである。
十八歳を迎えた若者は、聖なる神殿にて女神の神託を受け、一生を支配する独自の権能を授かる。
ある者は一振りで山を割る『聖剣術』を。
ある者は天変地異を操る『賢者魔法』を。
人々はその力に一喜一憂し、時には世界を救う英雄が、時には国を滅ぼす魔王が誕生した。
かつて、王国の北方を守護した名門中の名門、レガシー騎士家。
彼らは代々、敵軍を恐怖で平伏させる『威圧』や『鉄壁』のスキルを授かり、その勇名は大陸全土に轟いていた。
しかし、栄光は長くは続かない。
不運な戦火と多額の借金――そう“表向きには”語られている。
だが、その裏で何が起きていたのかを知る者は、ほとんどいない。レガシー家の没落は、決して偶然ではなかったのだ。
今やレガシー家は、「謝罪とマナーの安売り」で食いつなぐ没落騎士家へと零れ落ちていた。
「この儀式に、我が家の再興……いや、明日の米代がかかっているんだ」
レガシー家最後の中嫡男、ヴォルガッシュは神殿の冷たい床に膝をつき、必死に祈りを捧げていた。
彼が望むのはただ一つ。家訓を体現し、敵を圧倒的な力で屈服させる権能。
だが、運命の女神は――あるいは彼自身の極度の緊張は、あまりに数奇な悪戯を用意していた。
これが、後に世界中の騎士から「最悪の再来」と恐れられ、伝説の神竜に「鼻栓」を検討させた、一人の男の物語である。
――そしてその物語は、十八歳の儀式の日。
彼が“人生最大の聞き間違い”を犯す瞬間から始まる。




