休憩中
三題噺もどき―ななひゃくはちじゅうなな。
カーテンの開かれた窓の先には、美しい半月が浮かんでいる。
星はいつも以上に輝いているように見える。
もうそろそろ冬の大三角とやらが見える頃だろうか。
「……」
この時期の夜の特権と言えば、澄んだ空気のおかげで、月や星がよく見える事だな。
吹く風は冷たく、肌を刺していくような勢いすらあるが。
それを耐えてでも、星を見たいと思えるのはこの時期ならでは、だろう。
その証拠……というわけでもないが、昨日ポストには、天体観測のお知らせというのが入っていたようだ。地域の博物館か何かが主催をしているようだが、まぁ、私はそんなことをせずとも毎日見ている。彼らにとっての昼間は、私にとっての夜で、私にとっての昼間は、彼らにとっての夜なのだから、当たり前ではあるな。
「……」
それでも、飽きもしないのだから、夜空というのは不思議なものだ。
元より飽き性というわけでもないので、一概には言えないかもしれないが。
……目の前で、ドーナツを食べている、毎日飽きもせずにスイーツを作っている奴もいるから、私の回りには飽き性のやつはそういない。……アレもまぁ、飽き性どころか凝り性だな。
「……どうかしましたか」
「いや、なにも」
表面を砂糖でコーティングしたドーナツを食べながら、きょとんとしている。
その前には、マシュマロのういたココアが置かれている。
私の目の前には、砂糖の入っていないブラックコーヒーと、オレンジの皮が練り込まれたと言うドーナツが置かれている。
向かい合う形で座っているのだけど、その間にはこれでもかという程に積まれた数々のドーナツが鎮座している。
「……この量食べられるのか?」
「食べてください」
まぁ、サイズ自体は、普通のドーナツに比べて小さい。一口サイズと言えばいいだろうか。が……さすがに量が多すぎる。
数種類作ろうとして、こうなったのだろうけど、コイツは加減というモノを時折忘れるところがある。大量にクッキーを作ったり、いきなりチョコレートフォンデュをしてみたり、綿菓子の機械を買ってきたり、バレンタインだからという理由で大量のチョコレート菓子を作ってみたり……そこまで頻度がないからいいのだけど。
「これは、そこまで甘くないですよ」
そう言って、ドーナツの山から差し出されたのは、茶色のドーナツだった。
チョコレートがその半分を覆っており、その上にカラースプレーが降りかけられていた。生地そのものに何かを練り込んであるのか……。
「ココアを練り込んだものです、チョコはカカオが多めのやつですよ」
「……」
だから、さほど甘くはないと。
まぁ、ココアは家にある純ココアだろうし、カカオが多めのチョコレートも冷蔵庫に入っていたあれだろう。わざわざカラースプレーまでしなくてもよかったとは思うが。
……その前に、私は今目の前にあるオレンジのドーナツを食べないといけない。
ちなみに、現時点でもう既に腹は満たされている。小食というわけでもないのだが、昼食後の仕事をしている途中である、ちょっとした休憩の時間なのだ。そこまで量が入るわけがあるまい。
「……食べませんか」
「いや、頂くよ」
分かりやすく拗ねられると、断れもしない。
差し出されたドーナツを受け取り、皿の上に一度置かせてもらう。
まずはオレンジで口の中を一度さっぱりさせておきたい。ついさっき食べたのはかなり甘かったもので、口の中に居残っている。美味しいのだけどね。
「……ん、これいいな」
口の中に広がるオレンジの香りと、皮の程よい苦み。
主となっている生地は甘いが、ちょうどいいバランスを保っている。初めて食べたが案外行けるものだな。まぁ、コイツの作るスイーツはまずいことはないからな。
「それはよかったです」
「……このココアのも私は好きだな」
ついで、あまり甘くはないと言って差し出されたドーナツも食べた。
言葉通り、甘すぎず、かと言って純ココア特有の苦みというものがありすぎるわけでもない。程よいバランスを保ちつつも、ドーナツとしての甘さは忘れてない。
「……ドーナツ屋でもしてみるか」
「……お菓子作りは趣味と仕事を兼ねた結果ですから」
まぁ、私もこんなうまいものを他人に食わせるつもりはないのだけど。
ちょっとした誉め言葉として言っただけだ。
「……まぁ、たまには長めに休憩してもいいか」
「えぇ、いいと思いますよ」
眼の間にあるドーナツを食べない事には、仕事に戻れそうもないからな。
ゆっくり食べながら、静かな会話でも楽しむとしよう。
「……胸焼けしそうだ」
「そんなわけないでしょう」
「まぁ、そうなんだが」
「……今日はまだお仕事があるんですか」
「いや、今日はもうやめておこう」
お題:オレンジ・ココア・ドーナツ




