見た目命
この人のヌード描いてみたい…
最初にこの人を見た時の第一印象はこれだった。
筋肉質でガタイが良く、スタイルが良い訳では無い。
顔も特徴有りすぎる…と言うより正直メチャクチャ怖い。堅気に見えない。
そんなこの人に見た目にまず惹かれた。
私は今、美大に通っている。
父も絵に関わる仕事をしていて、子供の頃から身近に絵があった。
基本的な事も子供の頃から教わっていて、父も良い先生だった。
私も絵を描くのが楽しくて好きだった。
見た通りに上手に描けると周りのみんなが褒めてくれた。
私は綺麗に整った物に魅力を感じなかった。
アイドルや俳優みたいなお人形の様に欠点のない姿。
工場で作ったみたいな真っ直ぐな胡瓜やどれも同じ形、大きさに揃えられたトマト。
絵に描いても何の特徴も無く、感動も面白味も何にも無い。
やっぱり描くなら曲がった胡瓜、歪なトマト…
私は人物を描く勉強に骨格や筋肉などの作りを勉強した。
それから益々皮の外側の美しさに興味が無くなっていった。
人物を描く時に足ががっしり、しっかりしている方が人らしく見えて好きだ。
顔や体は一回みたら忘れない様な特徴がある人が好きだ。
ただ、特徴があると言ってもブクブク太ってる、ガリガリ痩せてるとかは好みではなかった。
今まで私は見た目に多少恵まれてたみたいで、可愛いだの綺麗だの言われて来ていた。
その言葉を聞いてもそんなに嬉しいとも思えなかった。
付き合って来た人は特徴のある見た目の人が多かった。
中には女の子もいた。見た目が宝塚の男役みたいに綺麗な人だった。
告白されて試しに付き合ってみたけど、同性だからと言う理由ではなくて、やっぱり綺麗な人に魅力を感じなくなって別れた。
そう言う総合的な感じで荒木さんはまず見た目でドンピシャだった。
○○○○○○○○○○
「初めまして、荒木と言います。この度は無理なお願いを聞いて下さり有難うございます。」
最初の挨拶もまるで軍人みたいにハキハキしていた。
リアル軍人に会ったことは無いけど…
多分こんな感じだろう。
荒木さんは刑事で、仕事で関わった子供の為に動物なんかの可愛い絵を描いてあげたいらしい。
裁判所とかで顔を合わせていたお父さんにお願いしたら、私にお鉢が回ってきた。
多分面倒だったんだろう…
一度描いてあげたら泣いて怖がられたらしいのでリベンジしたいみたいだ。
試しにどんなの描いたか見せてもらった。
「…」
これは何だろう…
足が12本有る…
多分目みたいなのが4つある…
ツノが多分顔であろう所の横から生えている…
「犬です」
と答えた。
「何で足が12本有るんですか?」
「漫画なんかで走ってる所を表現してみました」
走らせる意味があるのかなあ…
「…何で目が4つ有るんですか?」
「目は2つです。後は鼻と口です」
形が目なんだけどなあこれ…
「…なんでツノが顔の横から生えてるんですか。」
「これは耳です。自分の耳も顔の横に付いてます」
犬は顔の上に付いてると思うけどなあ…
「子供が喜ぶような絵はリアルさよりも可愛らしさだと思うので、簡単に描ける描き方を教えますね」
そう言って私はスケッチブックを取り出した。