異世界での朝
気がついたら、知らない家で知らない家族に囲まれていた。
けど、なんだか居心地がいい——
そんな世界の朝って、案外わるくない。
「……ン」
「……ロン……」
「クロン!! クローン!! いつまで寝てんのよ!」
母さんの怒鳴り声が、階下から直撃してきた。
「おわっ!? 今何時!? ……7時20分!?」
「なんで起こしてくれないんだよ、ポポー!!」
《おはようございます、クロン。6時50分にアラームは鳴りましたよ。それで起きられなかったのは、クロンの責任です》
「……そっか。……はいはい、了解〜」
ベッドから転げ落ちるように起きて、着替えをもたつかせながら洗面所へダッシュ。
「クローン? 起きたの〜?」
「朝ごはんできてるよー。早く食べてー!」
母さんの声、めっちゃ元気。
「へーい、今行きまーす!」
「あ、それとパパも起こして〜」
……父さん、また寝てんのか。
たぶん夜更かししてたんだろうな。
「父さーん、起きてー。遅刻するぞー!」
部屋の向こうからバタバタ音。
「おわっ!? 今何時!? ……7時32分!? なんで起こしてくれなかったんだよ、ポポ!」
《おはようございます、ノロン。7時15分にアラームは鳴りました。それで起きられなかったのは、ノロンの責任です》
「いやいや! 1回だけって、そりゃ無理でしょ〜!」
——数分後、ダイニング。
母さんが作ってくれた朝ごはんが、いい感じに湯気を立ててる。
妹のウララはすでに着席して、目玉焼きを口いっぱいに……黄身だらけだな。
「おー、ウララ、おはよ」
「パパ、おはよー!」
寝ぼけ眼の父さんが登場。
「うげっ、口まわりすごっ。クロン、拭いてやってくれ〜」
「はいはい……ん〜して、ん〜」
ウエットティッシュを取り出しながら、残量チェック。
少ない。あとで母さんに言っとこう。
「ポポがアラーム1回しか鳴らしてくれなかったんだよ〜、ほんと役立たず〜」
キッチンの母さんがツッコむ。
「パパ、自分で起きなよ!」
「ポポのせいじゃないでしょ? それと、お酒の飲みすぎ〜!」
「のみすぎ〜」
ウララが便乗。父さん、苦笑い。
「ウララ、君まで言うのかい……」
そんなやりとりに、思わず笑っちゃう。
——バッシュ家の朝って、こんな感じ。
「お〜い! 朝顔が咲いとるぞ〜!」
裏庭から、ジィちゃんの声が響いた。
バロン=バッシュ。72歳。父さんの父。
「光があれば影がある」とか「裏があるなら表もある」とか……正直、なに言ってんのかよくわかんないけど、嫌いじゃない。
変わってるけど、なんか芯があるんだよな、この人。
《8時15分です》
ポポの声が空間に広がる。
「うわっ、もう時間!? クロン、行くぞ!」
「ちょ、待ってよ父さーん!」
——
新しい世界の、新しい朝。
だけど、ちょっとだけ懐かしい気がした。
バッシュ家の朝は、にぎやかで、ちょっと騒がしくて、あたたかい。
「自分が誰か」なんて、今はまだわからない。
でもこの毎日が続くなら、それでもいいかもしれないって思った——今は。