処刑されたら帰れるって聞いてたから、悪役やったのに!
「クラウディア・ドゥ・メルフィーユ。
貴女の数々の非道、積み重ねた罪――もはや弁明の余地なし!!
この場をもって、処刑を宣告する!!」
わぁい、やったぁ……ようやく帰れるぅ!!!
その日。
王城の大広間に響き渡った断罪の声に、私は心の底から喜びを噛みしめていた。
だってここは、小説の世界。
私が元いた現代で大好きだった“ざまぁ系悪役令嬢モノ”の、まさに断罪シーンの真っ最中なんだもん。
私はクラウディア。
悪役令嬢に転生した、元OL、27歳。
そしてこの世界で生き残るための唯一の方法――
それは「処刑されること」。
処刑されたら現実世界に帰れる。
友達のミユキがそう言ってた。「処刑されたら、気づいたら現代だった」って。
だから私は、処刑されるために、そして自由に生きるために、悪役令嬢を演じることに決めた。
転生時の私は、6歳の公爵令嬢。
お金に困ることはないし、勉強も余裕。
前世オタクだったけど、頭は悪くなかったし、27年分の経験がある。
……でも私は、推しのライブに行きたい!!
元の世界に帰って、大好きな最推しの現場に戻りたい!!
そう願いながら、公爵令嬢としての人生を、わりと真面目に楽しんでいた。
ただひとつ、問題があるとすれば――
私、この体の持ち主、もともとのクラウディアが、
周囲から“とてつもなく怖がられている”ってこと。
メイドたちは怯え、貴族の子供たちは避け、でも親だけはやたら溺愛してくれる。
……なるほど、これは図に乗っても仕方ないかもね。
前世で子供好きだった私は、同世代の子たちと遊ぶのも、まあまあ楽しかった。
精神年齢が徐々にこの世界に馴染んできたのか、かけっこで笑えるようになってきたりして。
そんなある日、私は“運命の出会い”を果たした。
それは、この世界のアイドル的存在――そう、「演劇」との出会い。
もちろん、現代の最推しには敵わないけど。
それでも充分にときめいて、ワクワクして、追いかけたくなる存在だった。
でも……お父様には言えなかった。
どんな物でも買ってくれるけれど、“男のために金を使う”ことにはめちゃくちゃ厳しいから。
仕方ない。
だったら、自分で稼ぐしかないよね。
けれど私はまだ子供。
物を売りに行くこともできないし、親にバレずに金を得る方法も限られてる。
そんなとき、いつもの行商がぽろっとこぼした。
「人の売り買いもやってる」って。
……それだ!!!
ちょうど、私によくしてくれるメイドさんが、他のメイドたちにいじめられていた。
よし、いじめっ子メイド、売ろう。
夜中に部屋へ忍び込み、口を押さえて、手足を縛って、
翌朝、行商に引き渡した。
「このこと、お父様には内緒ね」
そう告げたら、行商は青ざめて頷いた。
私の父がどれだけ私を溺愛しているか、王都でも有名だからね。
そして私は、初めて自分の手で得たお金を握りしめ、
演劇へ行き、全力で推し活した。
それに、すっかり味を占めてしまった私は――決めた。
気に入らない奴は、どんどん売ってしまえばいい。
処刑されるまでの間、推し活して楽しく生きて、最後にバイバイすればいいんだから。
それからも私は、貴族学園に入学してもそのスタンスを貫いた。
気に入らない男爵令嬢は娼館に。
気に入らない令息は鉱山送り。
その金でドレスを買い、宝石を集め、推しを語るパーティまで主催した。
「娘を売るなんて許せない!」と怒鳴り込んできた親もいたけど、
逆にそいつらの家の弱みを握って、没落させてやった。
罪悪感? あるわけないでしょ。
だって私は、処刑されるために、悪役やってるんだもん。
王子のお気に入りだった男爵令嬢も、抜かりなく娼館に売っておいた。
処刑ルート確定。完璧な流れ。
これでようやく帰れる!
最推しのライブ、待っててね――!!
……と思ってたのに。
「……その処刑、待ったをかけさせていただきます!」
その声が、王城に響き渡った。
王子――ではなかった。
地味で目立たなかった、同級生の男子生徒が、玉座前に堂々と歩み出る。
「私は、第二王子、セドリック=ルーンベルグ。
身分を隠し、貴族学園に在籍しておりました」
……は?
「そしてクラウディア嬢の行動は、すべて“敵国の間者”の摘発に繋がっていました。
娼館送り、鉱山送りとなった者たちの親族の多くが、他国と通じる反逆者であったことが判明しています」
……はあああああ!?
「偶然とは思えません。彼女は本能的に、国家の敵を嗅ぎ分けていたのです」
いやいやいや、
私はただ、いじめて、売って、金稼いでただけなんだけど!?
「彼女を処刑することは、この国にとって大きな損失です。
よって私は、クラウディア・ドゥ・メルフィーユ嬢に――求婚いたします!」
(……………………)
……ねえ、違うのよ?
そうじゃないのよ??
これはね、処刑されて終わる予定だったの。
現代に帰って、推しに会う予定だったの!!!
「うっそぉ……」
処刑台に立つ足元が、ぐらりと揺れた気がした。
……私、帰れないの?
最推しに会えないの?
このまま“英雄”として、王妃候補として生きていくの??
――ねぇ神様。
話が違うんだけど!?!?