仲間と合流
めっちゃスローペースの更新です。すみません。
今日も変わらずプレイヤーでミッチミチな街の中を通り抜ける。蓮との待ち合わせ場所は東門とのことだが…アバターの詳細聞いてないから分かるかな?
「えーっと、プレイヤー名が《ロータスサンド》。蓮砂?」
「名前と地名だよ。桐吾なら知ってるだろ」
「アーマーイイナマエナンジャナーイ」
「いや《ボルトナット》のお前にそんな反応はされたくない」
「偶々横に工具箱があったからだ。つうかHNなんてそんなもんだろ?」
「…...色々と言いたいことがあるけど、行こうか」
向こうから声を掛けてくれたおかげで難なく合流することができた。というかこっちから探すのはほぼ無理だったと言えるだろう。なんせロータスの身長がかなり低いから、雑踏の中から探したんじゃ頭すら分からなかった気がする。
俺とロータスはそのまま北東の方角へ歩いていく。道はそれなりの登り坂といった感じで、遠くの方には山肌が見える。割りかしなだらかな山といった雰囲気を感じる。
「そんで、またなんでそんなアバターなんだよ」
「どんなアバターにするかは個人の自由だぜ?まあ、俺はちょっと課金したけど」
「だからってそれはどういう理屈だよ!?現実だってそれだろ!」
「甘いな〜。俺にとって男の娘はアイデンティティなの。だからこっちでもこの格好なのさ」
どうやら友人のこの格好はかなり重要なモノのようだ。それなりに付き合いは長い筈だが全く知らなかったな。
改めて見るとアクセサリーとか拘ってるのが見て取れる…てかこういうジャンルのゲームだとアクセサリーも何らかしらのバフが付いてたりするよな?
「お、流石に気づいたか。つってもコレはプレイヤーメイドだけどな」
「あ、なるほど。プレイヤーが作ったやつを買えばいいのか」
現状はmobのドロップ品やダンジョンの宝箱から入手した武器や防具が主だが、今後生産職のプレイヤーの経験値が貯まっていけばプレイヤーメイドの品物が主流になる可能性は高い。となれば今のうちに馴染みの店というのを見つけておくのも良いんじゃなかろうか。
この手の場慣れした発想が出てこないのは我ながらゲーム音痴と言わざるを得ない。
なんて雑談をしていたら周囲が鬱蒼とした森になってきた。遠目からははっきりしなかったが、どうやらここら辺のエリアは山に沿って広がる森林地帯のようだ。
「森かぁ…...迷うのが怖くて中々向こうじゃ行けないよなぁ」
「こっちはマップあるから真っ直ぐ帰れるぞ。まあ、どうせゲームが進めばマップ使用不可エリアとか出てくるだろうけど」
そんな他愛無い話をしていたら重めのブブブという羽音が聞こえてきた。原始的な嫌悪感の湧き立つ、デカめの虫が想起される音だ。
「…...なあ、因みにここら辺の主要mobって何?」
「え?蜂と狼」
帰りてぇ〜!!虫好きじゃないんだよ俺。まあ、Gとかカメムシよりはハチの方がまだマシだけど…
「3匹か......まあいけるか。タゲ取りよろしく」
「いや挑発系のスキルとか技ないんだが」
「取り敢えず前出たらわかるってのっ!」
思いっきり背中を叩かれ思わず一歩つんのめる。
その途端ハチたちの複眼が一斉にコチラを見た。
「なんかリアル!?」
「おー。ちゃんとこっち狙ってないな。やっぱ人いると構える時の楽さが違うわ。んじゃ、《貫通》と《狙撃》」
顔の真横を飛翔体が風切り音を立てて横切ったかと思った瞬間、スパパンと小気味良く高めの音が鳴ってハチ2匹が崩れ落ちた。どうやら弓のスキルか技だったらしい。
残る1匹は既に突撃姿勢を取っていたのでコチラも構え、すれ違い様に斬撃系の技を発動させる。
「《一閃》ッ!」
スパッと抵抗なくハチの胴体が真っ二つになる。称号込みとはいえ俺でも斬れた辺りそこまで強くないようだ。
「そ。平原の初心者向け敵mobをスライムとするなら、森の初心者向け敵mobはこのハチになるな。ちょっと見た目がリアル寄りで怖いけど、動きは直線的だしなんらかしらのデバフをかけてきたりもしないしで狩りやすいぞ」
「その見た目でリタイアする奴が多そうなのは商売としていいのか?」
それは運営に聞けとバッサリ切り捨てられた。それはその通りだけども。
とはいえ確かに動きはシンプルだし音めちゃくちゃ立てるしで初心者には有難いな。死角から襲われるとか不意打ち喰らうのが1番めんどくさいし、何よりストレスが溜まる。そういう点でもこの蜂は実に戦いやすい。ただ───
「狩りやすいのはいいんだけどよ。これさ、まだ奥に居るくないか?」
「相変わらず察しが良くて助かるね全く。お気づきの通り、この森エリアのダンジョンは文字通りの蜂の巣さ」
「ごめん俺帰るわ」
冗談じゃねえ。確かに、俺は虫が大の嫌いとなるほどではない。だが何匹も出てくるのなら流石に話が変わってくる。
「待て待て、本当に帰るのかよ?お前にぴったりな装備を作るための素材が出るかもしれないってのに」
それは......話が変わる。このゲームの先駆者であるロータスサンドが言うのだからそれなりに重要なのではないか?ある程度従った方がこちらの利になるのではないだろうか?
そう思って俺が足を止めたのが失敗だったのだろう。振り返った先に見たロータスの顔は、とんでもなく邪悪な笑顔をしていた事をお伝えしておきたい。
◇ ◇ ◇
「精神が!!削れる!!」
森エリアのダンジョン───通称蜂の巣は、謂わゆる地蜂呼ばれる土の中に作るタイプの蜂の巣のようだった。内部は細長い道が部屋の各所に繋がる形で、これっぽっちも蜂の巣らしい感じはない造りだった。
とはいえ中で遭遇するmobは概ね蜂であり、それ以外のは偶に黄色くてヤケに粘着質なスライムがいる程度だ。逆に言えば人間大の蜂が羽音を反響させながら次々に襲いかかってくるという事なのだが。
「これ最下層どこだよ!早く倒して帰りたいんだけ......うおわっ!?」
「あー!!ソイツだよソイツ!俺らが目当てのヤツ!」
俺にぴったりな装備の素材。それを落とすのが目の前の毒々しいピンク色の蜂らしい。さっき真横を通り抜けられた時の感じから言って、恐らくよく湧く蜂どもよりステータスは遥かに高いだろう。
「タゲ引くぞ」
「いつでもどうぞ!」
ロータスの返事と弓を引く音に頼もしさを感じながら、俺は長剣を胸の前に構え直した。初めての中ボスだが近距離遠距離両方が揃っているなら多少は楽に行けるはずだ。
「っしゃ行くぞ!」
ピンク色の蜂に2歩で接近し、一先ず技無しで斬り掛かった。ガッ!!というとても昆虫の腹を斬りつけたとは思えない鈍い音が耳に帰って来た。
「眼潰すからそのまま!」
ロータスの声を聞いて技発動のために体勢を変える。その瞬間、一本の矢が薄っすらとエフェクトを纏ってピンク蜂の片目に突き刺さった。突き刺さるというより丸ごと貫通したといった方が正しい威力だが。
「スタンした!」
「りょうっかい!」
ピンク蜂がフラっと地面に落下し始めたタイミングに合わせて《一閃》をサイケデリックな腹部に叩き込んだ。目に見えて蜂のHPバーが減少する。
「ロータス、追撃を───」
「もうやってる」
その返事を聞いて視線を下すと、足先数cmのピンク蜂の身体に大量の矢が刺さっていた。スキルやアーツを使った時の音やエフェクトがしなかったが......
「ん?ああ、暗殺者のスキルだよ。クールタイムは長めだけど任意の攻撃を隠せるんだ」
「こっっっわ」
どうやら腐れ縁の友人はゲーム世界で暗殺者になっていたらしい。コイツが空恐ろしいよ、ホント。
「はぁ......んで?ピンク蜂の何が俺にピッタリなんだよ」
「この蜂の甲殻がさ、ブレスレットに出来るのよ。それの効果がなんとSTR+8もあるんだわ」
「え、性能高くないか?こんな呆気なく倒せるmobのドロップ品から作れるのに?」
「いや呆気ないって言うけどよ、HP削ってダウン取ったのは俺の弓だからな?それに、コイツの素材加工できるのは最前線でアイテム作ってるレベルでやり込んでるプレイヤーぐらいだよ」
あー、思ったより簡単だったなとか思ったけどロータスが強いからだったか......調子乗ってたな。
「悪い、舞い上がってた」
「気にすんな。実際問題、ステータスで見ればお前もそのレベルの平均より十分高いよ」
ふむ。称号でステータスが強化されてるとは言え俺もステータスの伸びはいい方なのか。なら慢心したり焦る事なく地道にレベル上げってった方がいいんだろうな。スキルの習熟度もあるから継続的な鍛錬が必須だろうし。
なんか、目に見えて分かるから余計に努力せざるを得なくなるなコレ。
「ま、そういう訳だから行こうぜ」
「あいよ。今って最前線どこなんだっけ?」
「ゼルキスの森。妖精の森とも呼ばれてる」
随分とファンシーな別名だな。幻想的な風景なのだろうか?
「あ、勘違いするなよ?妖精ってのは湧くモンスターの大半がフェアリー系って意味だからな」
ぜーんぜんファンシーじゃなかったわ。




