ゲームスタート!
書いてみたくなったので…
───買っちまった。
機材一式でおよそ◯◯万円。機材一式と言ってもゴーグルとソフトだけなのにめちゃくちゃ高い。今になって軽い後悔が押し寄せて来てる。でも買っちゃったもんなぁ…
俺は机の上に置いた完全没入型VRゴーグルを見る。丸みのあるデザインとツートンのシンプルな配色。まあ、少し大きいことを除けば従来のVRゴーグルと変わらない訳だが…違う点は完全没入型ということ。言い換えるならフルダイブ型か。たった3年前に理論化され、あれやあれよという間に実用化されたこの技術はそれはもう大反響だった。
ちょっとした停滞に撃ち込まれた新技術。当然世界中が挙って参画し、タイトル数は指数関数的に増加しているらしい。王道のRPGからFPS、果てはサンドボックス系とかも出てるようで、完全に新しいゲームジャンルの一つとして確立されるほど盛況なようだ。
中でも俺が買ったこのMMORPG《New Fantasy Stars》はグラが良いってことで発売前から割と注目されていたらしい。
そんな訳で発売してからまだ1週間経たないながらかなりの勢いで売れているのだと、大学の研究室の仲間にお勧めされたので買ってしまった。
俺はいい加減迷いを振り切り、布団に横になってゴーグルを被る。えーっと、取説によれば確か側面にソフト選択の…あ、あったあった。《New Fantasy Stars》のアイコンを選択し、決定ボタンを押す。同時にだんだんと意識が引き延ばされ、落ちていくような感覚に支配されていった。
◇ ◇ ◇
───暗い。真っ暗な暗さというより、夜空みたいな暗さの世界が広がっている。
『《New Fantasy Stars》へようこそ!』
「おわぁっ!?」
びっくりした。目の前に如何にも神様みたいな女性NPCが浮かんでいる。あ、メニューが出てるな。音量下げとこ。
『まずはこちらをご覧ください』
「あー利用規約ねはいはい」
一応ちゃんと読むけどね。とはいえ普通のオンラインゲームの利用規約と大差なかった。
『次にキャラクターメイキングです!あなたの思うように仕上げちゃいましょう!』
ここはどうするかな。ふざけるか、真面目に作るか、デフォをちょっといじる程度で収めるか。
でもまあ、かかった費用分遊び倒すつもりだしちゃんと作るか。
数時間後…
「思ったより普通に纏まったな…」
黒髪ショートに緑がかった黒目。背丈はちょっと高めで体格も少しがっしりしてる程度。種族も人族とTHE普通になった。やっぱ金髪碧眼とかにした方がいいか?…絶対似合わない行動をしなきゃいけなくなるから辞めとこう。
次にステータスの画面になった。あ、ステのポイント割り振りって最初に複数パターン出せるのか。流石に偏ったとしてもそれなりにばらけるだろうし、取り敢えず回してみるかなー。
ロードを示すホワホワっとした感じの輪っかが回る。1秒もしないうちに割り振りが終わったようだ。どんなか、んじ…
おかしいな、どれ見ても大体がSTR、VIT多めの物理ステだ。INTとかMPが少なすぎる。えっリ、リロールとか…
「マジか…いやマジか…」
何個かパターン出して一切も魔法関係ないって…いや、多分アカウント消して作り直せば振り直せるだろうけどそこまで魔法使いたいって話でもないし…魔力が0ってわけじゃないからいいか。折角だし筋力任せの脳筋プレイもいいかもな。
「どれにしよっかなぁ…ぁ?なにこれ称号?」
あっtips出てきた。特定の条件や行動を満たすと獲得出来ます…と。はぁ?なんでゲームスタートしてないのにあるんだ?確率なのか?まあいいや、後で調べよう。
諸々の操作を終え、メニュー操作などのチュートリアルを受け終えたところで遂に初期街への転送となった。
『貴方の選択が幸多きことを願います』
俺は初期設定NPCのそのセリフを聞きながら浮遊感に包まれた。
◇ ◇ ◇
「おー…ここが最初の街か」
ファンタジー然とした街並みが広がり、暖色系の屋根で統一された建物が連なっている。ただ建物の細かいところはかなり違うのだから凄い。統一された雰囲気を出しながらの…っと、《教会》に行かなきゃな。
メニューにあるチュートリアル曰くそこで初期武器の配布と初期職業の獲得が出来るらしい。
「いやでっけぇ…なんだこれ、大聖堂ってやつか?」
第一印象としてめちゃくちゃデカいし白い。荘厳な雰囲気を醸し出す建物だが、プレイヤーらしき人たちがかなりの数入って行ってるので間違いなくあそこがチュートリアルの言う《教会》のようだ。
門をくぐり礼拝堂へ向かう。中の庭まで綺麗だな…なんて考えてたからか、目の前に現れた情報量につい固まってしまった。
窓は全てステンドグラス。柱1本1本全てにレリーフが彫ってあり、天井には巨大な絵画が描かれている。かと思えば床にも巨大な装飾が描かれており、この礼拝堂丸ごと1つが芸術品なのだろう。
「そうじゃない違う…えーっと、適当に扉を潜ればいいのか」
左右には大きな両開きの扉があり、どうやら転移ゲートとなっているみたいだ。くぐってみるとやや広いぐらいの小部屋に着いた。目の前にはお爺さんの神官が1人、杖を持って立っていた。
「よく参られました異邦の方。ここでは職業の洗礼が出来ますよ」
「あ、それじゃあお願いします。あとしょ…武器の配布もあると聞いたのですが」
「ええ、ございますよ。先に武器からお渡しいたしましょうか?」
「うーん…取り敢えず職業の方から」
言い終わると目の前に専用のメニューが出てきた。へえ、初期職業とはいえそれなりの数があるな。多分剣士みたいなやつも…あった。まんま《剣士》で書いてあったな。えーっと、これをドラッグ&ドロップでステ欄に入れると。
「決まったようですな」
「おかげさまで。武器の方って実物は見れたりしますか?」
「勿論です。これがお渡し出来る武器の一覧ですよ」
気付けば老人神官の横に台があり、多数の武器が置いてあった。片手剣から短剣や刀、鎌とか槌、鞭(!?)とかあった。うーん…持ち方1つだけってのも味気ないしバスタードソードでいいか。
「これでお願いします」
「分かりました。では創造神の名の下にこの剣を貴方に差し上げます。どうか、この武器で世界を魔の物から守ってくだされ」
なんかさらっと重要なこと言われたな。まあこれも後で調べるなら聞くなりするか。武器手に入れたからやりたい事あるからな。あ、でも来る途中で見つけた道具屋寄ってこ。
◇ ◇ ◇
「うおっ!?なんだその跳ね方!」
今俺は最序盤のモンスター、スライムと戦っている。最初は普通の青とか緑とかそこら辺のを倒していたんだが、急に草むらからブヨブヨしたスライムが飛び出して来た。しかもコイツ物理耐性が高いのか全然ダメージが通らん。何かないのか方法は。
意味ないだろうと思いつつ凝視して戦う。避けて剣を叩きつけてを4回ぐらい繰り返した頃だろうか、突然スライムの中が光った───気がした。もう一度目を凝らすと明らかに光ったのが分かった。手詰まりな現状狙うしかないな。弱点じゃなかったらドンマイってことで。
「おっっらぁぁっ!!」
気合いと共に両腕を振り抜く。パキンと何かが割れたような感触があり、すぐさま剣がスライムを一刀両断した。
『スキル:《鷹の目》を習得しました!』
幾つかのアイテムドロップ通知に紛れてそんなシステムアナウンスが聞こえた。説明を見た感じ視覚にボーナスが付くようだ。やっぱりさっきの光はスライムの核みたいな物だったんだな。ドロップ品にも《バウンシー・スライムの核》ってあるし。つかよく跳ねるからあんだけビュンビュン跳ね回ってたのか。
流石に疲れた…レベルも4まで行ったし街戻って落ちよう。
◇ ◇ ◇
「ってのが今日あったことだった。悪い蓮、すぐ返信出来なくて」
「いや別にっwwwおまっ、MPなしって中々無いぞっwww」
「んな笑う事ないだろ!別に良いだろ物理一点型でも」
「悪いとは言わないさ。にしても最初から称号持ちか。4例目かな?」
「あ、意外といるのか。どんなのが居るんだ?」
「まあ有名なのは最前線で攻略してる《精霊の寵愛》ってのを持ってる魔法剣士かな。全属性の魔法ぶっ放しながら斬り掛かって来るから単純に火力高い」
「魔法系のバフか。単純な分効果はあるって事ね羨ましい」
「しかし《武の真理》…レベルが高いほどSTRとVITとHPにボーナスでしょ?僕は結構強いと思うけどね」
「言い換えれば大器晩成型ってことじゃんかよ。レベル上がるまであんまり称号の効果にはあやかれそうにないな」
「そう落ち込むなよ桐吾。僕みたいな遠距離系と組めば君みたいな超近距離型は輝くよ?」
「要は盾になれって事だろうが。構わないけどよ」
「さんきゅー。あ、ちなみにLv.5で職業枠の上限増えるから今のうちに決めといた方がいいよ」
「INT値って遠距離系全般に効果あるんだろ?ってなると俺は魔法と遠距離が潰れるから…生産職?」
「残念ながら生産系の成功率にINT値が関わってきまーす。シンプルに2次職3次職って積んでいったら?」
「でもなぁ…攻撃のバリエーション欲しいし。体術系の職業ってあるんだっけ?」
「拳闘士だね。良いと思うよ。シンプルにダメージソースが増えるし、手数が増えるから戦闘の幅が広がると思う」
「決まりだな。明日の夜手伝ってくれ」
のんびり続けます