ep2. 落ちた先
「...んだぁ?」
体が痛い、頭痛がする、心なしか時間の流れがスローに感じる。自分に起きた出来事が理解出来ぬまま、周りを見渡す。あたりは闇に包まれており、一切の物音もしない。
「誰か助けろぉ!」
痛みは治まらず、人気もないのに思わず叫んでしまう。もちろん誰からも返事は来ない。
「お願いだぁ!助けてくれぇ!」
なりふり構わず叫んでいると、どこかから小さな物音が聞こえた。
「そこにいたのか!俺を助けろ、早くだ!!!!」
小さな物音はだんだんこちらに近づいてくる。良かった、俺は助かるんだ!!。そう思った矢先、一つの違和感に気付く。何か重いものを引きずる音が聞こえるのだ。
「待て!何を持っている!?」
そう叫ぶが返答は無い。
やがて物音の正体が見える。少しやつれた男だった、目に見えて怒っており、手には長いロープが握られている。俺はその男に見覚えがあった。
「お前...精神病棟にいた...」
そう、俺が親父に無理やり病院に連れていかれたとき、入り口近くで叫んでいた男だ。確か「俺は勇者なんだぁ、離せ!!」とか言っていたはず。
これはまずい、親父に世界の真実を理解してもらえなかった俺と違い、本当に狂っている奴だ。早く逃げねば、そう思うも体は自由に動かない。体を動かそうとするたび、痛みが増す。
「何をしようとしている...待てよ!待ってくれ!」
「君、僕の看護婦を傷つけたな...!」
「僕の...?知らない!人違いじゃないのか!?」
必死に嘘をつくが、男は止まらない。
「わかった..!俺がやった!謝るから許してくれ!!」
「うるさい!君みたいな悪は僕が退治しなきゃいけないんだ!」
男はロープを両腕で引っ張り俺の首に巻き付けてくる。必死に抵抗するが、俺の短い手足では贅肉に邪魔されうまく行かない。
「本当に死...助け...」
意識が薄れていく...どうやらここまでのようだ。俺の役目である世界の真実を広めることももう出来なさそうだ...。
「悪、討伐完了」
そのような言葉を聞きながら、俺の意識は底に沈んだ。
そのとき、確かに伊東 洋助は死んだ。狂っている男に殺されたはずなのだ。しかし、依然として洋助の意志は残っている。
洋助の意識は別の世界へと旅立ったのだ。