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第8話 再誕

「ティアにはこれを渡しておくわ」


 私は空間魔法の収納から取り出した首輪をティアに付ける。


「その首輪は収納の機能がついているものになるわ。ただし入れることが出来るのは一つだけ。だからそれには魂の抜けた私のこの体を入れてほしいの」

「魂の抜けたローザ様の体のことを考えてなかったにゃ」


 そんなことだろうとは思っていたので作っておいた。この首輪はティアのような精霊にも取り付けられるように作られている。精霊化したとしても体の一部として扱われるように作った。


「それじゃあそろそろ行きましょうか」

「にゃー」


 私が今から生まれる赤子としての私になる。このままだと、魂のない肉体は長く持たずに死んでしまう。正直な所、抵抗がないかと言えば無いこともない。


 ただ放っておいたら生まれた赤子の私は死ぬ。ティアの知る二回目の世界では、もともと体の弱かったお母様が子どもを亡くしたことと出産による体力の低下で亡くなったという話を聞いた。それを聞いてしまえば尚の事、魂の移行をしないという選択肢は無くなった。


「もうそろそろ時間のようね」


 同じ私だからだろうか、なんとなく生まれてくる私に呼ばれている気がするのだ。


「それじゃあティア、この身体のことをお願いするわ」

「任せるにゃ」


 床に座り目を閉じて集中をする。呪文などは必要ない、魂の認識はとうの昔に済んでいる。魂をこの肉体から抜き出すように意識する。


 目を開けるとティアの姿と、魂の抜けたために倒れ伏す私の姿が見えた。ティアが私の体に触れるとティアの首輪に吸収されるようにして消えた。


 ティアと視線があったので頷いてから、私は呼ばれている感覚に従って移動する。ここからお母様の部屋まではすぐそこだ。誰かに見つかる危険を犯してまでどうして屋敷内に忍び込んだかというと、お母様の部屋から近いという理由ではない。


 基本的に貴族の屋敷には魔除けの結界が張られている。そしてスカーレッド家の敷地内にも結界が張られている。そこまで強力なものではなかったと思う。そのため魂だけの私は侵入自体はできる。ただし中にいる人間に確実にバレてしまうわけだ。


 ただし魔除けの結界は、最初から中にある魂なら反応しない。それと魂が内から外へ出るのは阻害されたりしない。理由は死した者の魂を結界内に留めずに天へと送るためだ。そういう事もあり張られている結界を強力なものにできない。


(それにしても魂の状態は便利ね。壁や天井を通り抜けられるし見つかることもないわ)


 一階から二階に上がり、廊下を進む。途中で使用人と何度かすれ違うが誰も私が見えていないために反応されない。お母様の部屋の前へたどり着く。部屋の前には誰もいないがお母様の隣の部屋にはお父様がいるようだ。


 なぜわかるのかというと、扉の向こうから落ち着き無く歩いている足音が聞こえてくるからだ。そっと壁から顔を出して覗いてみると、腕を組んであっちへウロウロこっちへウロウロしているお父様がいた。


「ん?」


 お父様が立ち止まり私のいる方を見ようとした所で、私は身を引いて顔を引っ込めた。お父様がここまで勘が良いという記憶はなかったのだけど、昨日の街での事といい今の反応といい実は勘が良かったようだ。


 ガチャリと扉が開く音が聞こえたので急いでお母様の部屋へ入る。流石に男性のお父様はこの部屋にまで入ってこないだろう。


 お母様の部屋の中には五人の女性がいた。一人は天蓋の付いたベッドに寝ているお母様。一人は老婆で、屋敷の使用人の一人でメイド長だ。このメイド長は産婆の資格を持っていると聞いたことがある。


 壁際に控えている女性の二人には見覚えがある。屋敷の使用人の一人は私の乳母だった女性だ。もう一人は少女と言っていい見た目の女性で後に私の専属のような立場になる。そして最後の一人はまだ若い女性だ。私の記憶にない人物なので屋敷の使用人というわけではないだろう。そうなるとこの女性が序産師なのだろう。


「始まります、皆様ご用意を」


 序産師の女性がそう言うとお母様が苦しげにうめき声を上げる。メイド長が壁際に立つ二人に指示を出し、お母様の足元へ移動する。序産師がお母様の手を握り耳元で何かをささやきかける。


 序産師の声を聞いたお母様が目を開き私のいる場所に視線を向けてきた。見えないはずの私とお母様の視線が交差したように思えた瞬間、私は突然なにかに引き寄せられ目の前が真っ暗になった。



 大きくなっていくお腹に私とグレイス様の子供がいる。だけど私はずっと不安でした。お腹の子が死んでいるわけではないのはわかりますが、全く動いている気がしませんでした。聞いていた話ではお腹を蹴られたり鼓動を感じたりするようなのですが、私とこの子にはそれがありませんでした。


 お腹をなでたり声をかけてもそれは変わりません。不安が募る毎日だった。そんな折にグレイス様が序産師を連れてこられました。


 序産師とは子どもの生まれる日を正確に占うことが出来る。そして母子の負担を減らす様々な魔法が使える産婆のようなものだと聞いていました。実際はそれだけではないようですが、詳しくは聞いていません。


 唐突に苦痛が襲ってきました。目を閉じて苦痛に耐えていると、ミラーサと言う名のエルフの序産師が私の手を握り「大丈夫よ、あなたの子供はちゃんと生まれるし元気に育つわ」と言ってくれました。ミラーサの言葉には不思議な効果があるのか、痛みが少し弱くなった気がします。


 閉じていた目を開けると光が見えました。不思議なことにその光をみてなぜかやっと会えたという気持ちが湧き上がりました。そのまま光を見つめていると光は私に近づいてきて消えました。


 それと同時に激しい痛みが再び襲ってきました。光のことも気にする余裕がなくなり再び目を閉じ力を込めます。痛みに耐えながら長いようで短い時間が過ぎ……。


「ふぎゃー」


 全身から力が抜けました。ああ、ちゃんと生きているわ。何よりも今度はちゃんと生んであげられた……。あら、私は今何を思ったのかしら?



 苦しい。息ができない。体が動かない。そう思ったのは一瞬だった。体に衝撃が走り、詰まっていた何かといっしょに息を吐いた。


「ふぎゃー」


 私は自分の身体から発せられたその声を感じて、魂の移行が成功したことを確信した。生まれ直し、さしずめ再誕というところだろうか。すんなりと魂の移行が成功したのは肉体と魂が同一だからなのだろう。


 生まれたてだからなのか体がうまく動かせない。それにどうやら魔力も空っぽのようで感じることが出来ない。確か魔力は体に依存しているという説があった。つまりはその説が正しいと言うことを身を以て知ったことになる。


 魔力がないとなると、まずは魔力を増やす所から始めないといけない。空間魔法の収納が肉体ではなくて、魂の方に紐づけられていればいいのだけど。結局の所、収納を開けることが出来るくらいまで魔力を増やさないと確認もできない。


 ああ、体のほうが限界のようだわ。どうやら泣き疲れたために眠りに入ったようだ。そしてそれに引きずられるように私の意識も眠たくなってきている。


 確か赤子は寝るのが仕事なんて言われていたわね。しばらくは一日の殆どを寝て過ごすことになりそうだ。

一章はここまでになります。

続きは明日公開(忘れてなければ)。

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