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生まれ直した令嬢は二度目の生をわがままに突き進む  作者: 三毛猫みゃー


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第5話 街へ向かう

「それでこの世界の私はいつ生まれるのかしら?」

「明日にゃ」

「ん? よく聞こえなかったわ、もう一度お願いできないかしら」

「この世界のローザ様は明日うまれるにゃ」

「明日? 本当に明日なの?」

「そうにゃよ」


 流石に明日というのは思いもしなかった。もう少しこの体で今の世界情勢や国家間の事を調べたかったのだけど、そんな余裕はないようだ。


「屋敷は最初の世界と同じ場所にあるのよね?」

「そうにゃ」

「それなら少し急いだほうが良さそうね」


 私の記憶が確かならこの場所から私が生まれた屋敷に行くには、馬車で三日ほどかかるはずだ。ただし空を飛んでいけば一日かからないはずだ。だからといってのんびりしていたら生まれる時に間に合わないかも知れない。


「セレス紅茶ごちそうさま。ティア行くわよ」

「ローザさま、行ってらっしゃいませ」

「行ってくるわ」


 空中に浮いているティアを掴み小脇に抱えて外へ向かう。廊下を進みながらこの辺りから屋敷の位置を思い出しながら外へ出る。


 手を軽く振り空間魔法の収納を使い屋敷を収納する。地面に広がる黒い空間へと屋敷が入り込んだのを確認してから収納を閉じる。空間魔法で収納されたものの時間は経過しない。セレスは屋敷に憑いている妖精なので屋敷が空間魔法に収納されるとセレスの時も止まるようだ。


「それでは行きましょうか」

「にゃー」


 ティアを抱いたまま軽く地面を蹴って飛翔魔法で空へ舞い上がる。ついでに認識阻害を使い姿を見られないようにする。私の生家である屋敷へと向かって空を飛ぶ。進行方向に円錐形の結界を風除けとして作り出すことで、通常よりも早く飛ぶ事が出来る。


 休憩をしながら方向を確認して飛んでいく。そして半日ほど過ぎた頃に見覚えのある風景が見え始める。私がこの国から国外追放をされるまでの間過ごした我が家の領地。私が眠りにつく前にも一度空から見たはずなのだけど、その時とは少し違うようにも思える。


 街道を見つけそれに沿うように飛んでいくと遠くの方に街が見えはじめた。そしてその街から更に奥に赤い屋根の二階建ての屋敷が目に入った。


「懐かしいわ」


 自然と声が出ていた。国外追放を言い渡され、屋敷に戻った所で叔父に乗っ取られて出て行けと言われた屋敷だ。出ていくついでに魔法で燃やしたのだけどあの時はずいぶんとスッキリしたのを覚えている。


 その時には既にお父様もお母様も亡くなっていたし、昔からいた使用人も私が王都の貴族学校へ入っている間に解雇されていたのでためらう理由はなかった。そんな屋敷だけど燃やしてしまったためにもう二度と見ることはないと思っていた。そんな屋敷の無事な姿を目にしたことで涙が零れそうになる。


「何とか間に合ったわね」


 赤子の私が生まれるのは明日なので、いま屋敷に行っても意味はない。そのために屋敷の近くにある街で一泊しようと思う。遠目からでもお父様とお母様の姿を確認したいという誘惑にかられるけど、今は我慢をしようと思う。


「まずは街に入るにあたって髪の色を変えないといけないわね」

「にゃーはローザ様の髪は好きにゃーよ」

「うふふ、ありがとう。私も好きよ、だけどここじゃ目立つからね」


 私の真紅の髪はこのスカーレッド領では目立つのだ。珍しい色というのもあるがここまで鮮明な赤い髪は直系にしか現れない。


(あのクソッタレな叔父なんて赤にも見えないくすんだ色だったわね)


 とりあえず街から少し離れた場所にある森へ下りて魔法で髪の色を変える。燃えるような真紅の髪からお母様と同じプラチナブロンドに変えた。お母様はこの国の出身ではなく、スカーレッドの領地と接している隣国の貴族の出身である。


 隣国とは言ってもかなり昔からの同盟国で、両国の王族や貴族はお互いに嫁いだりしている程の関係だ。この世界も私の知る物と同じ流れをしているのなら、今のこの国の王妃は隣国の第三王女だった女性のはずだ。


「服装は冒険者に見える格好が良さそうね」

「そうにゃね」


 空間魔法で収納を開き黒いローブを取り出して羽織る。あとは普通の魔法使いらしく、一般的な魔法の杖を取り出す。杖の先端には小ぶりの魔石が付いている。大体の魔法使いはこういった魔石の付いた杖や魔石のはめ込まれたアクセサリを通して魔法を使う。


「どうせ一日だけしか滞在しないからこれでいいでしょう。後はマジックバッグに食料などを入れておけば怪しまれることはないかしらね?」


 マジックバッグというのは、いわゆる見た目よりも物が入るようになっている魔道具だ。値段はそこそこするが、小さいものなら特に珍しいものでもない。空間魔法の収納とは違って時が止まるわけではないし、入れたものの重さがなくなるわけではないので、物が見た目よりも少しだけ多く入る程度になる。


 今回私が用意したものは、肩掛けのポシェットタイプのものだ。中身はこういった時のために用意していた着替えの類と数日分の食料と水になる。マジックバッグ自体を収納に入れていたので、その中身も腐ったりすることもない。


「街に入るのに身分証などはいらなかったはず……、そうだったわ入場税がいるはずよね」


 マジックバッグの中にある小銭入れを取り出して中身を確認する。ティアの話では通貨のデザインなども変わっていないようだ。


「これだけあれば大丈夫そうね。それじゃあ行きましょうか」

「にゃー」


 私は森の中から街道へ出て、ふよふよと浮いているティアと共に街へ向かって歩き出した。

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