第48話 黒き聖女
馬車は王都を出てスカーレッドの領地へ向かって進んでいく。馬車の中にはラードリヒおじさまとリリンにルーセリアが同乗している。ラードリヒおじさまが同乗しているのでルーセリアたちと今後についてやシリウスに関する相談ができないでいる。
国王様と王妃様とのやり取りのあと、すぐにラードリヒおじさまがやってきて帰還することになった。馬車にたどり着くと既にリリンとルーセリアが待っていたのでそのまま馬車に乗り込み一度王都の屋敷へと戻った。
屋敷にたどり着くと早急に帰還の準備が始まり、その日の内に王都を出ることになった。理由は一つ、私が精霊と契約しているという事実が広がる前にスカーレッド領へ戻るためだ。このまま王都にいたまま精霊の事が広がってしまうと、私に危険が及ぶと考えられている。
国内の貴族からの求婚申し込みならまだいい。問題は他国だ。早い話が誘拐や最悪の場合は暗殺なんてことも起こりえる。それだけ精霊との契約というのは一大事ということになる。私自身は誘拐だろうが暗殺だろうが問題なく対処できると思っているが、周りの人間はそう思っていないのだろう。なんといっても私の見た目は五歳児なのだから。
そういう意味では今後シリウスも大変だろうとは思う。ただしあちらは王族なので守りに関しては万全だろう。それにこの世界の知識もあるようなので、私よりも安全ではあるだろう。次に会うのはいつになるかわからないけど、一度リセ恋関連の話をしてみたいとは思っている。
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「はぁ、やっと落ち着きましたわね」
「ロザリア様お疲れ様です」
スカーレッド領に戻ってきてから数日経った。屋敷に戻って来た時点で既に王都から連絡を受けていたお父様に色々と聞かれた。そうそう、お母様は無事に弟を出産していた。母子ともに健康ということなのでホッとしている。
話を戻そう。お父様には精霊の、つまりティアのことを紹介することになった。ただ反応としては思っていたよりもおとなしいものだった。どうやら私が精霊の加護を持っていることに気がついていたようだ。ただ加護ではなく契約をしていることには少なからず驚いたようだった。
王都であったことやティアのこと、そして私がシリウスの婚約者候補になったことに関して、お母様には暫く知らせない事になっている。無事に出産を終えたとはいえ、いま知らせる必要はないということになった。
そして私はいま屋敷に軟禁状態となっている。理由は他国の人間がスカーレッド領に入り込んでいるという報告を受けたからだ。目的は私の誘拐といったところだろうか。それらも近い内にお父様とラードリヒおじさまがなんとかすると言っていたので、それが終わるまでこの状況は仕方ないと思っている。
リリンが紅茶を三人分入れて席につく。戻ってきてからかなりバタバタしていたのでやっと三人で色々と相談できる。
「まずは、ルーセリアに確認しないといけないことがありますわ」
「何でしょうか?」
「ルーセリアはリセ恋Re:setというものを知っているかしら?」
「リセ恋Re:setですか? すみません、わからないです」
「やはりそうなのですね」
「その、Re:setというのは何なのでしょうか?」
「どうもシリウス王子はルーセリアと似たような状態のようですわ。といっても全くの同じというわけではなく、シリウス王子が知っている物語がリセ恋Re:setのようですわ」
ルーセリアは私の話を聞いてぶつぶつとつぶやいている。そういえば未だにルーセリアには私の素性を話していなかった気がする。そういうことでルーセリアとリリンに改めて私とティアのことを、そしてシリウス王子のことを私の憶測を交えながら話した。
「それにしてもシリウス王子の婚約者候補になるのは想定外すぎますわ」
「聞いた限りの状況ですと、仕方ないともいえますね」
ルーセリアがそういって慰めてくれる。
「シリウス王子に関しては、まずはおいておきましょう。それでリリンとルーセリアは聖女に関して何か情報はあったかしら?」
「申し訳ありません。王都にある伝を頼ってみたのですがやはり何の痕跡も見つけることは出来ませんでした」
「私の方も同じですね。各貴族の騎士になった者たちにも確認したのですが、それらしい人物の情報はありませんでした」
結局王都でも聖女の存在は確認できなかったようだ。やはり他国にいるのかもしれない。
「リリン、後ほどエルピス商会へいってリーザと情報共有をお願いしますわ。それにもしかするとリーザが新しい情報を手に入れているかも確認をお願いしますわ」
「かしこまりました」
「少しつかれたので私は少し休ませていただきますわ」
私がそう言うと、飲んでいた紅茶のカップを回収してリリンとルーセリアは部屋を出ていった。私はベッドまで移動してそのまま寝転ぶ。
「ティアいらっしゃい」
「にゃあ」
ティアが私の枕元で丸くなる。
「ねえティア。今のこの流れはティアにはわかっていたのかしら?」
「そんなことはないにゃよ。さすがのにゃーでも先の世界についてはわからないにゃ」
「そうなのね。てっきりシリウス王子のことも含めて先の世界のことも知っているように思えていたわ」
「シリウスが先の世界の記憶を持っていることがわかったからにゃ?」
「ええ、そうよ」
「それはどうしてかわかっただけにゃ。理屈なんかは知らないにゃ」
「そう。はぁ、それにしてももう私の前世の記憶も、ルーセリアのリセ恋のお話も今後はあてにならなそうね」
「そうにゃね」
もともと私の前世の記憶は意味をなしていないのだけど、王様や王妃様、それにお母様に生まれた弟など変わったことが多すぎる。ルーセリアにも確認したのだけど、そもそもリセ恋が始まった時点ではスカーレッド家は存在していないようだった。そのことを考えると、今の状況は奇しくも私にとっては最上の状況なのかもしれない。
「やはり最大のネックになるのが聖女の存在ですわね」
「そうにゃね」
「どうにかしてシリウス王子と話をする必要がありそうね。シリウス王子のリセ恋Re:setというものがどれだけ役に立つかはわからないですけど、もしかするとそこに聖女のヒントがあるかもしれないですわね」
そのようなことをつらつらと考えているといつの間にか私は眠りに落ちてしまったようだ。そして気がつけば夢を見ていた。そんな夢の中に現れたのは、全てが黒く染まった人の形をした何かだった。ただ私にはその何かが聖女だとなぜかわかった。
「──────────」
黒い聖女が私を指差し意味のわからない言葉を話し、ニタリと見えないはずの笑みを浮かべ闇へと消えていった。私はそのような聖女を見たことで、夢だというのに全身が総毛立つのを感じそのまま意識を失った。
第一部 完
というわけで、ここで一旦の終了となります。
続きはなろうコンの中間に通れたら書くかもしれません。
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