第47話 婚約者候補
「大丈夫かシリウス」
私は別にイケメンが好きだとかおじさんが好きだとか、そういった好みはない……はず。だけど目の前のイケオジが人を引き付ける声でシリウスに話しかける。
「父上、母上、俺は大丈夫です。こちらのご令嬢のおかげで無事に精霊と契約も出来ました」
イケオジの後ろにいて姿が見えなかったが、どこかシリウスに似た女性がいることに気がついた。だからといってシリウスがイケオジ、王様に似ていないわけではない。王様の見た目は金色の髪に碧眼。年齢は四十代くらいだろうか。ヒゲがとても似合うイケオジだ。
そして王妃様は黒髪で茶色の目をしていて、髪は肩下で切りそろえられている。腰には魔法のロッドとショートソードが下げられていて、最初は護衛かと思った。だけど顔立ちがシリウスにそっくりな所と、シリウスが母上といった事で王妃なのがわかった。
ああ、確かに記憶にある王様と王妃様と似ている。そう、似ているのだ。私の知る王様はもう少し細身で今ほど筋肉質ではなかった。そして王妃様も髪の長さが腰ほどまでの長さがあったし、魔法のロッドやショートソードを扱うような人ではなかったはずだ。何かがあり王様と王妃様も、私が知るものと変わってしまったのだろう。
「お嬢さんお名前をうかがってもよろしいかな?」
考え事をしていたために最初私に声をかけていた事に気が付かなかった。私は焦りながらもスカートを軽くつまみカーテシーをする。
「失礼しました。スレイリ王様、アリーシャ王妃様。お初にお目にかかります私はロザリア・スカーレッドと申します」
「ほう、グレイスの娘か」
肯定するように、一段深く頭を下げて見せる。
「顔を上げるが良い。どうやらシリウスの精霊契約で世話になったようだからな。この場では礼儀などなしで構わない」
その言葉に顔を上げて姿勢を正す。視線を王様に移した所でバサリと突然背後から抱きつかれた。驚いて体が固まる。全く気配を感じさせない動きだった。部屋に動くと殺されるのではないだろうか?
「うふふ、かわいい。ねえあなた、次は女の子がほしいわ」
「お、おい、ロザリア嬢が驚いて固まっているぞ」
王妃が私の頬をぷにぷにとつっついてくる。敵意は感じないので体の動きを緩める。
「母上そのくらいにしてあげてください」
「わかったわよ」
王妃は私から離れる。ホッとして視線を前に戻すといつの間にか王様のそばに王妃様が立っていた。
「えっ」
思わず声が出てしまい背後を振り向くが誰もいない。瞬間移動? その割には魔力が全く感じられなかった。つまりは身体能力だけで今の一連の動きをしたことになる。前世ではこのような動きをしていなかった。
「さて詳しい話は後ほど聞くことにしよう。会場の方はこちらで対処するとして、ロザリア嬢はこのまま帰ったほうが良いだろう」
「そうですわね。シリウスのためとはいえロザリアちゃんも精霊の加護を持っていると知られてしまったものね」
王様と王妃様のいったことを考えると頭が痛くなりそうだ。シリウスの中にいる転生者を助けるためとはいえ、私が精霊の加護を持つことが知れ渡ったことで面倒なことになるのはわかりきっている。
「ご配慮感謝いたします」
「確か付き添いとしてグレイスの代わりにラードリヒと来ていたな。やつもすぐに向かわせるので近衛に馬車まで送らせよう」
「それがいいわね。そ・れ・と、ロザリアちゃんにはシリウスの婚約者候補になってもらうわ」
えっヤダ……とはいえず固まってしまう。まあシリウスを助けると決めた時にそうなることは覚悟していた。ただこの場で決まってしまうのは予想外だった。
「すみません。失礼を承知で申し上げさせていただきたいのですが」
「なんだい? もしかしてシリウスでは不満かな?」
「いえ、そうではございません。シリウス様にはステイシー様が婚約者となるのでは無いのでしょうか?」
「ああ、そういうことか。それは問題ない。ステイシー嬢も婚約者候補のママだからな」
「えっ?」
「ロザリアちゃんとステイシーちゃん以外にも婚約者候補はいるのよ。だからロザリアちゃんは期にしなくても大丈夫よ」
何が大丈夫なのか全く理解できない。
「ただロザリアに関してはシリウスの婚約者候補としておいたほうがいいだろうというだけだな。シリウスが気に入らなければ成人する前に婚約者候補から抜ければ良い。今回の処置はロザリアが精霊の加護を持っている事にたいする保護の意味が大きいと思ってくれ」
そこまで言われて理解できた。つまり私を王家の保護下に置くことで、他国などからの婚約を避ける効果が見込まれるためだろう。せっかくの精霊の加護を持つ者を他国に嫁がせるわけにもいかないし、逆に他国の人間を婿に迎えるわけにもいかない。
国内は国内で上から下まで様々な貴族がちょっかいを掛けてくると思われる。それを避けるための処置というわけだ。
「感謝いたします」
王様と王妃様に頭を下げて感謝を伝える。
「でも、うちのシリウスと一緒いなってくれても私は一向に構わないわよ」
そういう王妃様になんと答えれば良いのかわからず、無表情で顔をそらすことしか出来なかった。





