第46話 精霊契約
『いや、そんなわけはないな。あれはあくまでゲームの……、まてまてまてまてどういう状況だ。ここはどこだ、俺は、俺は誰だ?』
ものすごく混乱しているようで自分が誰かもわからないようだ。
『とりあえず落ち着きなさい』
『お、おう』
シリウス王子に近寄り凄んで見せると少しは落ち着いたようだ。
『とりあえず私に話を合わせなさい。良いわね?』
『わ、わかった』
さてシリウス王子は落ちついたが、この状況をどうしたらいいのだろうか。
「ロザリア、君は王子と会話が出来ているようだけどどうなっているんだい?」
ステイシーが訝しげに私を見てシリウスを見てまた私を見てくる。シリウス王子の、もうシリウスでいいか。シリウスの奇行をみて、通じない言葉を話していることになにか悪いものでも憑いているのではないかなどの会話が聞こえる。
(ティア、一つ訪ねますわ)
(なんにゃ?)
(シリウス王子に光の精霊を契約させることはできるかしら?)
(簡単なことにゃ。もともと相性はいいにゃ)
(そう、ありがとうティア)
はぁ、ここでこんなやつのために切り札を切ると思うと業腹だけど、このままにしておくわけにはいかない。それにこんなのでも記憶を持っているというのは何かの役にはたつだろう。
「皆さま落ち着いてください。今シリウス王子は精霊との契約をしようとしておりますわ」
私の言葉にざわめきがおきる。中にはそう言うことかというように頷いているものもいる。ステイシーも驚いた表情を浮かべている。
「そのために今のシリウス王子は少しばかり混乱していますわ。皆さまの中には私とシリウス王子の会話が成立していることに疑問に思われている方もおられると思いますわ。それに関する答えは簡単ですわ。私はある精霊と契約をしており、その精霊より加護を授かっていますわ。そのために今のシリウス王子と会話が成立するのですわ」
私がそこまで一気に話すとざわめきが更に大きくなった。ここまで騒がしくなる理由は、私が精霊と契約をしているためになる。精霊と契約出来るものというのは数が少ない。それこそスカーレッド家の初代が火の龍の精霊と契約をしていた事で侯爵になれるくらいの希少性だということだ。
そんな契約を五歳児が既にしているということは、野心のある貴族なら喉から手が出るほど手に入れたいと思うのが普通だ。それも女の子となると、結婚という手段を用いて自らの家に取り込むことは容易だろう。
ただ私が公爵家の一人娘でなければだ。そこで問題になるのが生まれる予定の弟なのだけど、弟のことを知る人間は今ここにはラードリヒおじさまだけだ。そのおじさまも他人に言ったりしないだろう。
『シリウス王子、少し気分が悪いという感じで倒れなさい』
『えっ、まて、シリウス王子? 俺のことか?』
『そのことは後にしてください。私の板いったことは理解出来ましたか?』
『お、おう、倒れればいいんだな』
シリウス王子は胸元を押さえ苦しそうにうめき声を出しながら倒れる演技をした。
「シリウス王子! 大丈夫ですか」
ステイシーがシリウス王子に近寄り声をかけ、様子を見ている。
「そこのシリウス王子の従者様。シリウス王子を控室まで急いで運んでいただけるかしら?」
「えっ、は、はい。今すぐに」
「ステイシー、申し訳ないですけどシリウス王子を少しお借りしますわ」
「お借り、何をするつもりだい?」
「シリウス王子の精霊契約を。それさえ済ませれば王子の体調は良くなると思いますわ」
「わかった。こんなのでも私の幼馴染というやつだ。どうかたのむ」
ステイシーとシリウスが幼馴染というのは初耳だけど、先程までの態度はそれが関係していたと考えると納得できるものがある。
「皆さま、今より別室にてシリウス王子の精霊契約の手助けをさせていただこうと思いますわ。それでは少し失礼させていただきますわ」
私はそういってカーテシーをしてシリウス王子を抱き上げている従者を促し会場の出口へ向かう。途中でラードリヒおじさまに視線を向けると、後は任せろというように頷いて返して来た。
会場を出てすぐ近くの控室へ移動すると、王子をソファーに寝かせてもらい従者にも部屋から出ていってもらうことにする。従者は最初渋っていたが、人がいると精霊契約が失敗するかもしれないというと何かあれば大声で知らせてくださいといって部屋から出ていった。
『あなたもういいわよ』
『ああ』
シリウスはそういうとソファーから起き上がりそのまま座った。
『とりあえず精霊契約を済ませましょうか。話はその後にしましょう』
『精霊契約。俺がシリウスだとすると光の精霊だよな』
『そうですわ。ティア、お願いしますわ』
『わかったにゃ』
ティアが姿を表しにゃーと鳴いた。ティアの姿を見たシリウスはなんだコイツはといった視線を向けていたが、光の精霊が現れたことでそちらへ顔を向けた。光の精霊は真っ白く見える光のローブをまとった手のひらに乗りそうなサイズの人の形をしていた。
「にゃー。にゃにゃにゃ」
ティアがそういうと光の精霊はシリウスの前まで空を滑るように移動する。シリウスと光の精霊はお互いに見つめ合い、暫くすると光の精霊が消えた。
「どうかしら?」
「ああ、無事に契約は出来た。ついでにこいつの記憶もあるていど思い出した、ってのは少しおかしいかもしれないが状況は理解できた」
精霊との契約が出来たことで記憶を引き継いだのか言葉が共通語になっている。
「そう、それは良かったですわ。状況はわかっているかしら?」
「よりによってアホのシリウスだとはな。今後を考えると頭が痛い。それにお前ってラスボスのロザリア・スカーレッドだよな?」
「ラスボスというのはよくわかりませんが、ロザリア・スカーレッドで合っていますわ。ただし私もあなた同様に前世の記憶を持っていますわ。ですからあなたの知るロザリア・スカーレッドとは別人と思っていただいて構いませんわよ」
「そうか……。とりあえず精霊の件は感謝する。それにしてもよりによってシリウスとはな、どうせなら第三王子だったらヌルゲーだったのにな」
私の前世ではこの国に第三王子はいなかったはずだ。この世界もそうだとすると、第三王子というのは行方不明中の隣国の王子のことだろう。私はシリウスに詳細を聞こうと声を掛ける。
「それってどういうこと──」
ドカンと轟音が聞こえた。顔を部屋の入口へ向けるとそこにはきらびやかな衣装を着たイケオジが立っていた。





