第40話 今世の王都
王都にあるスカーレッドの屋敷へ辿り着いた。王都の構造は岩山の背後に王城が建っていて、その周りにまず貴族の屋敷が集まっていていわゆる貴族街という場所になる。その外周には城壁があり、出入りできる箇所が一箇所だけに絞られている。外壁の左右には王都の住民が済む住宅が、中央通りには冒険者ギルドや商人ギルドなどのギルドが固まって建てられている。
更にその外側には宿や酒場のような店舗が並んでいる。そして王都の入場門に向かうにつれて露天などが軒を連ねている。我がスカーレッドの屋敷は王城にほど近い所というわけではなく貴族街のほぼ中央にある。
なぜこの立地なのかは私も知らない。ちなみに十二歳になった時に私の通うことになる貴族学校は王都の外にある。基本的に全寮制の学校になるのだけど、王族や公爵家に侯爵家や伯爵家辺りまでは、王都の家から通う事を許可はされている。
ただ今のところそれを行使しているものはいなかったはずだ。王都から近いとはいえ移動が面倒くさいのと、王族だとしても監視の緩い学校のほうがいいというわけだ。寮生活に関しては、十二歳になって貴族学校に入るときにでも改めて話すことになると思う。
場所は王都から一時間ほどで作られた街の中にある。その街のお店はそういった貴族を相手にする店が殆どになる。といっても高級店は限られていて、大体が子爵家や男爵家が気軽に使えるように値段の抑えたお店が多い。 王族や侯爵などの上位貴族と言われる者よりも、子爵家や男爵家のほうが人数が多いので当たり前といえば当たり前だろう。
それにそういった貴族家を相手に商売をする商を相手にするお店や露天もでている。ただし兵士が頻繁に見回りをしているので治安はいい。当然のことながら貴族学校のある街には貧民街などというものはない。そういう意味では王都よりも安全ではあるのかも知れない。
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お披露目会が開かれるまでは王都で買い物などをして時間を潰そうと思う。お披露目会が開かれるのは今から三日後になる。本来ならお父様が王城へ出向いて挨拶をするところなのだけど、今年はお母様の妊娠に付き添うということで免除されている。
護衛の騎士にも休暇が出され、リリンとルーセリアにも休暇を出している。二人は遠慮していたけど無理矢理休ませた。今頃二人は仲良く王都のスイーツ屋でも巡っているだろう。それとラードリヒおじさまは王都について早々さっさとどこかへ出かけていった。行き先は聞いていないけど、多分女の子の所だろう。
そして私は一人で屋敷に残ってお留守番である。その間私は部屋に引きこもっておくつもりだ。私の食事などの世話はリリンの代わりに屋敷を管理しているメイドや執事がしてくれている。
「ティアおいで」
「にゃーー」
「こうして二人になるのは久しぶりね」
「そうにゃね」
膝に乗るティアの背中を撫でる。
「それにしても王都は変わったわね」
「そうにゃ?」
「ええ、そこかしこに人以外の者が歩いていたわ」
「確かにそうにゃね」
「それに特にいがみ合うなんてこともなさそうだったわ。それに貴族の中にもエルフやドワーフらしき者もいるようだったわ」
「今回の世界ではそれが普通のことにゃ」
「そのようね」
王都にたどり着くまでは、異種族といえばいいのだろうか? そう言った者たちはあまり見なかった。ただそれも王領に入ってからは違った。王領の砦にも獣人などが兵士をしていたし。エルフの徴税官がいたりもした。
スカーレッド領は東の方にあるのだけど、東の方は異種族の割合が少ないのかも知れない。一応騎士団にも獣人もエルフもいるし、ゴン爺のようなドワーフもいるので居ないわけではない。ただスカーレッド領よりも、王都は異種族率が高いようだ。
馬車の中で見ただけでも、人種に比べて異種族が半々くらいの様に見えた。この様子なら貴族も異種族の比率も同じくらいなのかも知れない。念の為各貴族について王都の屋敷を管理している人たちに聞いてみたほうがいいかも知れない。
前世と同じ感覚でお披露目会に行くとどこかでミスをする気がする。どうも異種族感で子どもは生まれるようだけど、ハーフというものは存在しないようだ。物語等だとハーフはどちらの種族からも始まれるような表記が多かったが、この世界で異種族を生み出した何者かがそうならないようにしたのだろう。
「ふう、部屋に引きこもっているのも存外暇ですわね。確か王都の屋敷にも図書スペースがあったはずよね?」
「にゃーにはわからないにゃ」
「そうだったわ。ティアがこの王都の屋敷に来たのは初めてだったわね」
「そうにゃ。にゃーがローザ様に生み出されたのはまだまだ先のことにゃ」
「国外追放をされて、国を出て。リーザと別れた後のことだったわね」
膝に乗っていたティアを抱き上げてベッドの上に下ろす。
「それじゃあちょっと本でも見繕ってくるわね」
「わかったにゃ」
毛づくろいを始めたティアを横目に部屋を出て記憶を頼りに図書スペースへ向かう。よく考えればこの屋敷に来るのは生まれ直してから初めてになる。前世でも王都での生活は貴族学校の寮を利用していたのであまりこの屋敷は使った覚えがない。
屋敷の管理をしているメイドや執事の人数は少ないので今のところ遭遇していない。
「ロザリア様どう致しましたか? 御用の際は部屋のベルを鳴らしていただければお伺いしますが?」
遭遇しないと思っていたタイミングで声をかけられた。
「あなたは、確かシーリスでしたわね」
「はい、シーリスと申します。この屋敷を管理しているメイド長をさせていただいております。と言いましてもこの屋敷を管理している者は五人だけですけどね」
そう言ってシーリスは人好きのする笑顔を浮かべている。シーリスは緑色の髪をした五十代くらいの女性だ。この屋敷に勤めているのはシーリスが言ったように五人だけになる。とはいえ警備の騎士はカウントされていない。騎士に関しては一年おきに交代するのもあるが、基本的に離れにある宿舎で寝泊まりをしている。そのために屋敷には入る事がほとんどない。なので屋敷の管理は五人だけになる。
メイドが二人、執事が一人、庭師が一人、料理人が一人の五人だ。シーリスと執事のフェルナは夫婦で、もう一人のメイドのルナリスは二人の娘なのだとか。前世でもそうだった記憶がある。シーリスとフェルナは、お祖父様の時代からこの屋敷を任されているらしい。そういうわけで、この屋敷に関してはお父様やお母様よりも詳しい。
「普段ベルなど使わないので失念していましたわ」
「そうだと思いました。御当主様も同じ事を言っていましたよ」
お父様と同じと言われて少し嬉しくなる。
「そうですわ。図書スペースなど無いかしら? 持ってきた本も読み終わってしまって代わりに読めるものがどこかに無いかと思ったのですわ」
「それでした図書スペースへご案内します」
「よろしくお願いしますわ」
シーリスの後についていき記憶にある図書スペースへ辿り着いた。
「こちらになります。持ち出しも自由ですので、お戻しの際は一言声をかけていただきましたら私達の方で片付け致しますので」
「わかりましたわ」
シーリスはそう言って図書スペースから下がっていった。
「さてと、何か面白いものはあるかしら」
前世ではあまりここの本を読んだ記憶がない。変わった本の一つでもあればいいのだけど。





