第4話 新しい世界
「どういう事か詳しく教えてほしいわね」
「そのままの意味にゃよ。にゃーがローザ様に生み出された世界は、にゃーにとって一回目になるにゃ。そして滅んだ後に再生された世界が二回目にゃ。二回目の世界もまた長い年月をかけて滅んだにゃ。そして今がにゃーの知る中で三回目の世界にゃよ」
「私が眠っている間に世界が二度滅んだということなのね」
「そうにゃ」
「結局滅びを防ぐことは出来ないということなのかしら?」
「にゃーにはわからないにゃ。だけど少しずつ変わっている所もあるにゃよ」
「そうなの?」
「そうにゃよ。にゃーの知る二回目には獣人と呼ばれる種族が増えたにゃ」
「獣人? 名前からして獣の姿をした人なのかしら?」
私が眠る前は獣人と呼ばれる存在は居なかった。ティアが言うあの方という存在か、もしくはそれ以外の何者かが滅びを回避しようと手を加えているのかしら? そんな事が出来るのなら、それこそ創世神様ではないのだから?
「そして三度目の世界にも新しい種が現れたにゃ」
「新しい種が現れた?」
「エルフ、ドワーフ、巨人、魔人、竜人、他にも人魚、魚人、翼人などにゃね」
「エルフやドワーフなんてまるでおとぎ話のようね」
獣人とは違い、エルフやドワーフなどは想像上の物語によく登場するのだけど、実際にいるというのは異世界に迷い込んだようで不思議な気分になるわね。もしかすると私はまだ眠ったまま夢を見ているのかしら。
「もうよくわからなくなってきたわね。そもそも私が眠ったのは、死ぬ前に少しだけ未来の世界を見てみたいというだけだったのに。気がつけば二度世界が滅び、見知らぬ種族が増えているなんてね。どうせ目を覚ますのなら科学の時代を見てみたかったわ」
「心中お察しするにゃ」
「ふふ、ティアも冗談を言えるようになるなんてね」
「これでもにゃーも成長しているにゃ」
ティアはえっへんというように胸を反らしている。私が知る世界には人と魔物、あとは精霊や妖精と呼ばれる存在しか居なかった。これだけ沢山の種族が増えて世界は混乱しなかったのかしら? 世界が再生した時に人や魔物と同じタイミングで現れたのなら、私やティアのように過去の世界を知っているわけではないので混乱は無かったのかもしれないわね。
◆
話を聞いた限り世界はかなり混沌としているように思えていたけど、決してそうではないようだ。現在は各種族が国家を作り別々に暮らしていて、中には多数の種族が集まって国家を作っている例もあるようだ。そのために私の知っている国家が無くなっていたり、知らない国家があったりと私の知識は意味をなしていない。
ティアの話では二度目の世界の歴史は一度目とほとんど変わらなかったようだ。それは獣人と呼ばれる種族が居ても変わることはなかった。そしてその二度目の世界でも私は生まれたようだ。私は眠っているはずなのに、私が生まれるというのは聞いても意味がわからなかった。
「ですが、二度目の世界のローザ様は生まれてしばらくして死んでしまったにゃ」
「私が死んだ? それはどういうことなの?」
ティアがいうには、二度目の世界でもお父様とお母様はお生まれになりそして結婚して子どもをもうけられた。お父様やお母様が一度目の世界と同一人物かと言われると迷うところではあるけど、ティアが言うには魂は同じなので同一人物でいいのでは? とのことだ。
そして二度目の世界で生まれた私がすぐに亡くなってしまったのは、その肉体に魂が入っていなかったからだとか。確かに同一人物と考えるのなら、眠ったままのこの体に私自身の魂があることになるので、赤子として生まれた私の中には私の魂が宿っていないのは理にかなっている。
この事に関しては色々と考えたい所だけど、既に終わってしまっている二度目の世界のことなので、考えても意味はないのだろう。そしてここからがこの三度目の世界の現在まで、ずっと眠ったままだった私が目覚めた理由に繋がるようだ。
「このタイミングでローザ様をお目覚めさせたのはにゃーにゃ。たぶんにゃけど、にゃーが起こさなければローザ様はにゃーが大精霊を辞めるまで起きなかったと思うにゃ」
「そうなのね。ただ先程の話を考えると、どうして今なのかは想像できるわね」
「そうにゃ、もうすぐこの世界のローザ様がお生まれになられるにゃ」
話の流れからそうなのではないだろうかとは思っていたけど、想像通りだったようだ。そしてここからも私の想像が正しければ……。
「ローザ様の今のお体はもう限界にゃ。お眠りになる前もそうだったにゃけど、みゃーとの繋がりがあるとはいえ、長い年月を耐えるには無理があったにゃ」
「つまりはティアは今あるこの体を捨てて、魂の無い生まれてくる赤子の私に魂を移しなさいと言いたいのね?」
「そうにゃ。にゃーはローザ様と一緒にいたいにゃ」
魂の移行が出来るか出来ないかでいうと出来る。出来るのだけど生物間の移行は本来は難しい。なぜなら移行先には既に器を満たす魂があるからだ。そのために魂を移す時は、無機物への移行が多い理由だ。
インテリジェンスアイテムと呼ばれるものがあるけど、大体が魂を無機物に移行させた成れの果てになる。殆どのインテリジェンスアイテムは、元の人格の喪失、もしくは狂って持ち主に害を与える物に成り果てる。
さて、では今回の様に魂のない赤子に私の魂を移行できるかとなると、理論上は全く問題なく出来る。大精霊であるティアが勧めてくる事からも世界的な禁忌というわけでもないのだろう。
今の私の肉体は見た目だけなら三十代に見えるが、内側は既に限界が近い。そしてこのままでは赤子として生まれた私の体も魂がないことですぐに死んでしまう。ここまでお膳立てされてしまえば、実行しないという選択肢はありえないように思える。





