第38話 王都へ
「とりあえずはこんな所ですわね。他になにか見落としなどは無いかしら?」
「そうだな。私が思うに味方は多いほうが良いだろうから、女性陣はなるべく仲良くいしたほうが良いだろうね」
「そうですわね。隣国のミーティア嬢以外とは接触をしてみて友誼を結びたいですわ」
「手札は多いほうが良いだろう。今のうちから縁を繋いでおけば貴族学校へ入ってからも味方になってくれるかもしれない」
「そうですわね。友好的であれば聖女ステラが現れても問題ない可能性も。過度の期待はせずに出来ることはしてみようかしらね」
「それが良いだろう」
リーザの言うように、わざわざ三侯爵子息と敵対する必要はなし。気に入らない人物もいるが今の子どもの時点なら何があっても笑って許せるかも知れない。
「とりあえずはこんなものかしら? ティアからは何か無いかしら?」
「にゃーからは何もにゃーですにゃ」
「そう?」
「そうにゃ。それに何があってもにゃーはローザ様の味方にゃ」
ふわふわ浮いているティアを抱き寄せて喉を撫でる。ティアは喉をごろごろ鳴らして気持ちよさそうにしている。続いてティアをひっくり返してお腹をワシャワシャと撫でる。これ以上は特に何もなさそうなので話を終えることにした。
◆
「お父様行ってきますわ」
「おう。リーザも気をつけるのだぞ」
お父様と言葉を交して馬車に乗り込む。お母様とは部屋に赴いて挨拶を済ませている。私に続いてリリンとルーセリアが同乗して馬車が動き始める。ここから王都まで十日ほどかかる。ちなみにお披露目会は二十日後に開かれるので余裕を持っての出発になる。
途中で通ることになる他領には既に通知住みなので足止めされるということはない。護衛も十分なので盗賊や山賊の類に襲われる事はないと思う。問題は魔物のたぐいだけど、そちらも十分対処できる戦力が護衛として付いている。
護衛の中には剣鬼と呼ばれているラードリヒ叔父様もいるので、街道沿いに出る程度の魔物なら一撃で倒してしまうと思う。
「馬車の旅というのも存外暇ですわね」
「そうですね。まあ私の時はそう思う余裕は無かったですけど」
「どうしてかしら?」
「この馬車ほど良い馬車ではなかったので、縦に揺れて大変でした」
実のところ今乗っている馬車はルーセリアの知識を借りて改造したものになる。板バネというものを使うようで、ずいぶんと揺れが軽減されている。何やらゴン爺とこそこそしていると思っていたら、いつの間にか我が家が所有する馬車が全て改造されていた。
どうやらお父様とお母様の許可はとっているようだったので、私には事後報告ということで最近その事を知った。私は大丈夫なのだけど、あまりに揺れが酷い馬車だと酔う人もいる。それを考えるとこの改造は画期的ともいえるかもしれない。
この馬車も売る予定のようだ。まあ馬車に関しては私の専門外なのでお父様に任せるつもりだ。きっといい値段で売って我が家の財政を潤してくれることだろう。
王都までの旅は今のところ順調に進んでいる。スカーレッド領内には盗賊や山賊も、そして魔物も現れることはなかった。普段から治安維持をしている騎士のおかげだろう。
続いてスカーレッド領を抜けると、他領に入ることになる。とはいえ、隣接する多くの領地はスカーレッド家の寄子の領地が殆どだ。その辺りまではスカーレッド家が寄親として支援をしているので治安は悪くない。ただしその領地の外側、スカーレッド家とは関わりの薄い地域に入ると一気に治安が悪くなる。
本来なら王都の周辺というのは治安が良いものだと思われていた。理由としては王都の周りにある領地というのは一領地あたりの広さがすごく狭いのだ。そのために盗賊たちは、被害のあった領地の領主軍が到着する前にすぐ近くにある別の領地へ逃げてしまう。
領主軍も他領にまで逃げた盗賊を追うことが出来ない。許可なく越境なんてしようものなら、下手をすれば同じ国に所属していたとしても戦争にまで発展する。そういうわけで、盗賊や山賊のような者たちにとっては活動がしやすい土地になってしまっている。
何らかの理由で街の中で暮らせなくなった者たちが、野盗になったり盗賊や山賊になるというのはよくあることだ。そういった輩は捕まえても縛り首になるだけなので遭遇したら殺してしまっても構わない。
なぜこのような話をしているかと言うと、後方を警戒していた騎士からの報告で私たちの後方を付いてきていた商団が盗賊に襲われているという報告を受けた報告を受けたからだ。
「戦況はどのようなものかしら?」
「はっ、商団側が不利なようです。休憩中にでも弓による奇襲を受けたのか、後衛がやられたのが響いているように見えました」
「そう。このような場合はお父様たちならどうするものかしら?」
実際は聞かなくても大体お父様がすることはわかっている。きっと最低限の護衛を残してお父様自らが盗賊の討伐に向かうのだろう。報告に来た騎士にもそれがわかっているためか、私に正直に行って良いのか迷っているため目が少し泳いでいる。
「ここは様子見がよろしいかと」
ルーセリアが騎士をかばうようにそう言ってきた。騎士の男性は少しホッとしたように頷くように頭を下げている。
「私の立場、年齢、そして今の状況を考えるのでしたらその判断は最適だと思いますわ」
私の言葉に若干不服そうな雰囲気を出す若い騎士がいくらかいるように感じられる。ただし年配の者や上級騎士は私に言うことが正しいと言うように、表情を含めて微動だにしない。
「ただし我がスカーレッド家が、今の状況を知ったうえで戦うことに臆したと思われるのは甚だ不本意ですわね」
私は周りの騎士を見回すように顔を向ける。私が何を言うのか察したようで既に騎士たちの闘志が立ち上がるのが感じられる。
「輸送品の護衛は今の配置のままに。それ以外の者は速やかに賊の殲滅を。我がスカーレッド家の武威を示しなさい!」
「「「はっ!」」」
斥候をしていた騎士に護衛に当たっている騎士たちへの伝言を頼む。今回の護衛騎士たちの隊長を務めている、副騎士団長のセイバスを先頭に騎馬に乗った騎士たちが整列する。
「それではロザリア様行ってまいります。何があるかわかりませんのでロザリア様もお気をつけ下さい。ラードリヒ殿、ロザリア様の事をお願いいたします。」
「ああ、任された」
ラードリヒのおじさまはいつもの冒険者の服ではなく、貴族らしい装いをしている。その背には大剣が背負われていて、いつでも戦えるようにしているようだ。
そして進軍の指示をしようとしたセイバスに私は待ったをかける。
「セイバス、並びに我がスカーレッドの騎士たちよ。皆に私の祝福を」
私はスカーレッド家の紋章が描かれている短剣を取り出して頭上に掲げて魔法を使う。整列している騎士と騎馬たちにキラキラと光る赤い粒子が降り注ぐ。
「こ、これは」
セイバスが驚いた表情を浮かべている。こういった人前で私が魔法を使うのは初めてなので、私が魔法を行使したことに驚いているのだろう。
「火への耐性、若干の心身高揚、そんな所ですわ。セイバス後は頼みますわ」
「はっ! 全速前進、目標は商団を襲撃している賊およそ三十名。賊共を殲滅するぞ!」
「「「応!」」」
セイバスを先頭に二十名ほどの騎士が駆けていく。
「ロザリア様良かったのですか?」
「魔法のことかしら?」
「はい」
リリンが心配そうに声をかけてくる。
「どうせそのうち分かることですわ。それに別に隠していたことでもないですわよ? ただ単に使い所がなかっただけですわ」
実際にスカーレッド領では使う機会がなかったので、魔法が使えるのはあまり知られていないと思う。ただし勘のいいお父様やお母様にはバレているような気がする。





