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生まれ直した令嬢は二度目の生をわがままに突き進む  作者: 三毛猫みゃー


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第31話 隣国

「まずはご依頼の隣国の情報を伝えさせてもらうよ」

「お願いしますわ」


 エルピス商会に辿り着いた。店内中央に置かれている商談などに使われる丸テーブル、そこにある椅子に座っている。ルーセリアは私の斜め後ろに立っていて、リリンは勝手知ったるといった風に、魔導コンロでお湯を沸かして紅茶を入れる準備をしている。


「事前にローザ様から聞いていた政争は確認できなかったようだ」

「そうですのね」

「ただし第三王子の行方が分からなくなっているようです」

「第三王子ですか」


 第三王子。前世では第一王子が病のため亡くなっている。それを契機に第二王子と第三王子の派閥の間で政争が繰り広げられた。最終的には第二王子が後継者となるのだけど、第三王子は行方知らずになったと記憶している。


 政争が起きる前に第三王子が行方不明ということは、秘密裏に殺されたのだろうか? ん? なにかおかしい。もしかして何かを見落としている?


「第一王子はどうしましたの?」

「健在ですね」

「それはどういうことかしら?」


 前世とは違う流れの隣国。いったい何があったのだろうか?


「魔力凝固症。それが第一王子の病名ですね」

「つまりリーザが作った魔力凝固症の治療薬が、隣国の第一王子に効果があり助かったということですわね? どうしてそのようなことになったのかしら」

「ローザ様の母君が第一王子と同等の症状だったようです。そして母君の病気が治った。それが母君のご実家である伯爵家から王家へ伝わったと思われます」

「そうなのですね。ですがあの治療薬の出どころは先の世から来た私ということになっているはずですわ」


 そう、お父様はあの事を誰にも話していない。仮に問い合わせがあり話したとしてもリーザにつながることはないはずだ。


「一つ確認なのですが、お母君に使った治療薬の瓶はどうされましたか?」

「使用後の瓶……あれは、どうしたのかしら? まさか」

「そのまさかだと思います」

「屋敷に戻りしだい改めて確認してみますわ」


 リーザが言った通りなら使用後の瓶は既に屋敷にはないのだろう。お父様がお母様のご実家から求められて渡したか、何者かが屋敷に侵入して持ち出したといったところだろうか? ただ屋敷には結界が張ってあるので誰にも気が付かれずに侵入は出来ない。


 隣国は何らかの手を使い瓶を回収して、残っていた治療薬を調べて同じものを作ったのだろう。簡単に出来るものではないのだけど、隣国にはよっぽど優秀な錬金術師がいるのだろう。


「つまり第一王子が生き残ったということで、今後隣国がどうなるかわからなくなりましたわ」

「そうなりますね」


 前世では第二王子が王となった。その後はずっと何事も起きなかった。事が起きたのは私がバカ王子に国外追放を言い渡された後になる。そして私が屋敷を燃やしリーザたちと逃走をした後に、他国と協調する形でこの国に攻め寄せたはずだ。


 隣国が攻め寄せてきた頃には私はとっくに遠方まで逃れていて、後にそういう話を聞いた。ある意味その戦争のお陰で私達は追手に追われ続けることもなく逃げおおせたのかも知れない。


「ルーセリアはなにか知っているかしら?」

「私ですか?」

「ええリセ恋にそう言った話はないかしら?」

「えーっと、なにかあったようななかったような」

「まあ良いですわ、何か思い出したら改めて教えてもらいますわ」

「わかりました。思い出してみます」


 ルーセリアは腕を組んで何かを思い出そうと唸っている。


「ロザリア様、リーザイア様紅茶が用意できました。それからティア様の分はこちらに置いておきますね」


 私とリーザの前にソーサーが置かれ、その上にカップが置かれる。リリンがそのカップに紅茶を注ぐといい香りがあたりに漂う。ティア用に深皿に紅茶をそそぎ、リリンは自分の分とルーセリアの分にも紅茶を注ぐ。


「ダージリンですわね。使った分も合わせてあるだけ購入させていただきますわ」

「それは助かる。ローザ様ならきっと購入してくれると思っていたよ」

「紅茶なら買いますわ。それに今回のダージリンは珍しいものですわ。今買っておかないと次はいつ買えるかわかりませんわ」

「たしかにな。値も張ったが数も少なかったからな」

「これは春摘みのもののようですので、もう少ししてから購入した所に行けば秋摘みのものが手に入るかもしれませんわ」

「はは、わかった。買いに行ってみる」

「購入代金とは別にかかった費用は支払いますわ」

「それは気にしなくていい。他にも用事があるからね」


 秋摘みのダージリンは確かミルクティーに最適だったはずですわ。手に入るのが今から楽しみだ。


「隣国に関しては以上だ。一応情報屋は雇っているからなにか変わったことがあればまた知らせることにする」

「お願いしますわ」


 本来なら第二王子が攻めてくるのだけど、第一王子が王となった事でもしかすると戦争は回避できたのかも知れない。仮に攻めてきたとしてもお父様もお母様も健在で、いまならラードリヒもクランごと協力してくれるだろう。


 第一王子がまともな人物なら、わざわざ危険を犯して我がルカーレッド領に攻めてくることはないと思う。


「ついでに第一王子の人となりなども調べてほしいですわ」

「そうだな。ローザの話を聞いていたために失念していたな。わかった第一王子に付いても調べておく」


 本来なら第一王子が死んだことで、第一王子の派閥の貴族が第二王子と第三王子の陣営に分かれたのだろう。そこから政争が始まりいつの間にか第三王子が失踪。危険を感じて逃げ出したのか、それとも秘密裏に暗殺されたのか。


 ただ暗殺されたのなら病死とでもしておけばいいはずだけどそうはならなかった。その辺りなにか理由があったのかもしれない。今となっては前世の事なので調べようがない。


 そして今世でも第三王子が失踪している。なんとなくだけど、私は第三王子を知っている気がしている。根拠などはないのだけど、前世で会っているような……。

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