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生まれ直した令嬢は二度目の生をわがままに突き進む  作者: 三毛猫みゃー


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第30話 スカーレッド領

 お父様とお母様を見送った翌日、早速領都までやって来た。リーザを交えての魔導具関係の話や依頼していた隣国の情報を教えてもらうのが今日の目的になる。


「それにしてもスカーレッド領の領都は他の領地の領都に比べると小さいですね」

「そうですわね。ですがなぜここの領都が小さいのかはちゃんと理由はあるのですわよ」


 街に入り馬車置き場で馬車を降りて歩いてリーザの店に向かう。今日の私の衣装は少しお金を持っている商人の娘に見えるような服装になっている。そしてルーセリアは、革鎧と腰に剣を下げ冒険者に見えるような出で立ちをしている。一方のリリンは、私と似たような服装になっている。


「理由があるのですか」

「ええ、規模が大きいというだけでしたら、ここから馬で一日の距離にあるダンジョンに近い街のほうが大きいですわ」

「ではそちらを領都にしたほうがよろしいのでは?」

「ルーセリアが言うように、そうするのが良いのでしょうね。それに元々はあそこが領都であり、我がスカーレッド家の名ばかりの本邸が置かれておりますからね」

「そうなのですね。ではどうして今はこちらに……、隣国との関係でしょうか?」

「ええそれで合っていますわ。そもそもスカーレッド領は、王国の直轄領だった所を爵位を頂き侯爵となった折に拝領されたのですわ。ただその頃はダンジョンを狙う隣国との争いが絶えず、ダンジョンへの通り道としてこの場所が使われていたようですわ」


 ダンジョンというのは様々な資源が手に入る場所だ。魔物の素材、鉱石、中には薬草や果物に野菜なども手に入る。階層によっては海の魔物や魚介なども手に入る。それを狙って国同士の争いが絶えなかった。


 この領地は王都から遠い。そして隣国からダンジョンを守るには相応の力がいる。そこで火龍という守護精霊の力を得た我がスカーレッド家にこの領を任せることで、王家の負担を減らす事が出来るわけだ。


 当時の王家はこの領のダンジョンを持て余していたのもある。ただし他国に奪われるというのも許されることではない。それにこの国には王家直轄のダンジョンは他にもあるので、一つや二つくらい王家の手から離れても問題ないと思ったのだろう。実際に、龍を守護精霊としていた我が家を含める四大侯爵家の領地も他国からほど近い場所を領地としている。


 ここで疑問が出るのが、龍を守護精霊としていようが多勢に無勢、隣国の軍隊を一人でどうこうできるわけではないだろうという疑問がでる。答えは龍の守護精霊持ちがひとりいるだけで、数千人規模の軍隊ならどうとでもなるのだ。


 ただしそれをしてしまうと龍の精霊に守護されている本人も無事では済まないのだけど。それでも、それが出来るという事実は戦争を仕掛ける側への牽制となる。そういうわけで初代様が大っぴらに火龍を初手で顕現させ脅した所で隣国との長期の停戦が結ばれることになった。


 隣国としては龍の守護を持つ初代様が亡くなるまでとも思ったようだけど、精霊の守護を、それも龍という特別な精霊の守護を得るということは若さを保ったまま寿命が伸びる事になる。


 結局は長い年月の内に停戦から有効へと代わり、そのうち隣国から嫁いでくるなどして今に至る。隣国としては血の繋がりで取り込もうとしたのだろうけど、この国の王族もそれはわかっていたようだ。そういうわけで、我が家の血筋にはこの国と隣国の王族の血が入っている。


「それでどうしてここに屋敷を構えたかですわね。最初は保養地として利用していたようですわ。隣国から嫁いできた姫が病弱だったこともありこの場所に屋敷を構え、いつしか当時の当主もここで暮らすようになったと伝えられていますわね」

「愛する姫のために屋敷を建てたなんて、なんだかロマンチックですね。確かにバラ園や薬草を育てる温室なんかもありましたよね。その時の名残でしょうか」

「そのようですわね」


 ふと思ったのだけど、お母様もお父様に嫁いでくるまでは隣国の貴族だった。その事から魔力凝固症も隣国固有の病気なのかもしれない。少し調べてみるのも良いかも知れない。もしそうなら治療薬を使いコネを作るのに役立ちそうだ。


 問題としては、治療薬を作るための素材を集めるのが大変なのと、今の私だと自分で作れないのでリーザに頼むしかない。どちらにしても調べるのもリーザなので、リーザに丸投げとも言える。


「おっ、ローザの嬢ちゃんじゃねえか」


 もうすぐでエピルス商会にたどり着く所で声をかけられた。私の名前を呼ぶ子の方を見ると黒髪の男性が立っていた。髪の色と同じ真っ黒な服を着ていて腰には剣が下げられている。この男性の名前はラードリヒ・シークル、お父様の親友だ。


「ごきげんよう、おじさま。ダンジョンはよろしいのかしら?」

「ああ、冒険者業は暫くお休みだな。この時期はここの領から騎士の数が減るからな。グライスから冒険者ギルドに治安維持関係の依頼が出ていてそれの関係で暫くはこの街にいるつもりだ」


 ちなみにグライスというのはお父様の名前になる。ラードリヒ様は冒険者として普段はダンジョンへ潜っている。たまにお父様に会うために我が家の屋敷を訪ねてくる。今よりも小さい頃から会いに来るので、本当の叔父よりもおじさまと言ってもいいだろう。


「それは、ありがとうございますわ」

「まあそういうわけだから、何かあれば冒険者ギルドの方に連絡してくれ」

「ええ、手が必要な時はお願いいたしますわ」


 ラードリヒ様は「じゃあな」と言って歩いていった。何か私に用事があったというわけではなくてただ単に見かけたから声をかけてくれただけのようだった。


「剣鬼ラードリヒですか」

「そうですわ」


 ラードリヒ様を見送ったルーセリアが「ふぅ」と止めていた息をはいている。私にとっては気の良いおじさんだけど、ルーセリアにとっては緊張する相手のようだ。


「黒というクランのクランリーダーをしているようですわね」


 前世では、私の知る限りクランを立ち上げたりクランリーダーになったりはしていなかったはずなのだけど、今世では黒という冒険者クランを立ち上げている。


 先ほどおじさまが言っていたように、お父様から冒険者ギルドにスカーレッド領の治安維持の依頼がでている。正直な所、報酬は大したことはない。それこそラードリヒ様のクランならダンジョンに潜っていたほうが何十倍も報酬が得られるはずだ。


 それなのにラードリヒ様のクランは毎年その依頼を受けてくれていると聞いている。もしかするとクランを立ち上げたのもこのためだったりするのだろうか? 本人に聞いてもきっと違うと言いそうだけど、なんとなくそんな気がした。

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