第28話 鬼畜ゲー
「そういえば、ルーセリアは以前リセ恋を鬼畜がどうとか言いそうになっていましたわよね?」
「あ、はい、言いましたね」
「ステラのせいで、不幸になる令嬢が出ることを言っているわけではないですわよね?」
「そうですね。リセ恋が乙女ゲームの皮を被った鬼畜SLGゲーと言われている理由はいくつかありまして、その一つが全攻略キャラをコンプリートした後に開放されるハーレムルートですね」
「ハーレムといいますと、一人の男性もしくは女性が、複数の異性を侍らす事でしたかしら? 確か遥か東方の砂の国がそのような制度をしていたと記憶していますわ」
一応この国でも男性なら複数の女性を妻にすることは出来る。逆に女性が複数の男性をというのは聞いたことはない。仮にいたとしても大っぴらにしていないのだろうけど。
「そのハーレムですね。簡単に言いますとステラが攻略キャラ全員をはべらせて終わる話ですね」
「つまり全ての令嬢が婚約者に捨てられるということですわよね? 女性が複数の男性をはべらすというのははしたない行為とは思えますけど、鬼畜と言うほどではないのではなくて?」
「それだけならそうなのですけど、この話には続きがありまして」
「続きですの?」
「その捨てられた令嬢というのは、公爵令嬢のステイシー様、他の方も伯爵令嬢ですし、隣国の令嬢もいるわけですよ」
「つまりはご令嬢のご両親が激怒して何かが起きるということですわね」
「何かといいますか、複数の国との戦闘に突入する所で終わりますね」
「そうですのね……。やはり聖女をなんとか見つけ出して殺しましょうか」
「私も世界平和のためにその方がいい気がしてきました。ただステラ自身はプレイヤーが操作する主人公なので、リセ恋だとプレイヤーの選択次第といいますか、自意識を持っているこの世界だとどうなるか全くわからないのです」
聖女ステラをどうにかするのは仮に見つけることが出来れば実行することにする。だけどルーセリアが言うには、貴族学校に入学する前の事は一切の謎で、今の時点でこの国にいるかどうかもわからないようだ。
それだけでなく、どのような環境で育ったのかやご両親の存在なども謎。どういった経緯で貴族学校に入ることになったのかも謎で、謎ばかりの存在なのだとか。それにげえむのステラは、物語の主人公のように本人の意思で行動するというわけではなく、それを操作するぷれいやあという読み手が行動を選択している操り人形のような存在ということだった。
それを聞いてしまうと、ぷれいやあの選択により悪女と成り果てる聖女ステラという存在が哀れにも思える。だからといって、人の婚約者を奪うという行為が許されるわけではないのだけど。それに、人の意志で動かされているというのは、リセ恋というげえむの話であって、前世の時は聖女ステラ本人の意思で行動していたのは変わらないのだろう。
仮に聖女ステラがいなければ、前世の私はバカ王子と添い遂げることになったのだろうか? 貴族学校に入学した時点まではバカ王子をまだ多少なりとも慕っていた。その状態で聖女ステラがバカ王子を選ばなければ、私はどうなっていたのだろうか?
今更考えても仕方がないことではあるけど、聖女ステラがいたからこそ今の私がここにいる。それにそのおかげで今世はお母様とお父様も健在だと考えると悪いことだけではなかったようにも思える。結局聖女ステラに関しては様子を見るしかないのかも知れない。
「シナリオはその戦争関連くらいですね。問題はSLG……、戦闘の部分になります」
「えすえるじーというのはよくわかりませんが、戦闘といいますとダンジョンに関することでいいのですわよね?」
「メインはそうですね。貴族学校にあるダンジョンに関することになります。リセ恋の戦闘はターン制のシミュレーションになっていまして、乙女ゲームにしてはすごく凝っています。その凝っている部分が鬼畜と言われていまして、リセ恋の戦闘パートはその名の通りリセット出来ないのです」
「リセットですの? それは当たり前のことではないかしら?」
「現実に置き換えるとそうなのですけど、SLGというものはゲームですから力不足ならやり直しが出来て当たり前なんですよ。それなのにリセ恋はそのやり直しが一切出来ません。仮にプレイヤーが操作するステラが死んだらそこでゲームオーバーになります。そしてリセ恋の恐ろしい所は、ゲームオーバーになるとセーブデータがすべて消えるのです……。更にそれだけならいいのですけど、戦闘パートに入ってしまうとロードができなくなるのです。流石に酷い仕様だということで、後日バージョンアップで改善はされるのですが、それまでの仕様をあわせて鬼畜ゲーと言われていました」
よくわからない単語が次から次に出てくる。詳しく聞いてみた所、ゲームというものは記録した地点からやり直しが出来るのが普通なのだとか。だけどそのふつうのことがリセ恋では出来ず、それどころか失敗してしまうと全ての記録が消えて貴族学校の入学からやり直しになるようだ。
その辺りの事を合わせて鬼畜げえむと言われていたようだ。なんとなく言いたいことはわかった。いうならば読んでいた書物を眠る度に忘れてしまい、毎回最初から読まないといけなくなると考えると確かに酷いルールに思えた。
「そういうことで、リセ恋、リセットの出来ない恋というタイトルはそのことも絡んでいるようでした」
「そうですのね。リセ恋に関してはだいたい理解できましたわ」
「もっと語りたいことはありますけど、実際に貴族学校に入らないとどうにも出来ないですからね」
「そうね、まだ十年は先の事になりますわ。ルーセリアがよろしければ、その時までに資料としてまとめていただけると助かりますわ」
「お任せください、覚えている限り書き記してみせます」
「お願いしますわね」
今の時点で全てを教えられても、覚えていられるかはわからない。結局情報が必要になるのは、貴族学校に入るのは十二歳になった時になる。それまでにルーセリアが資料としてまとめてくれるのならきっと役立つことが出来るだろう。





