第19話 作戦
私の案は横においておいて、まずは皆の意見を聞いてみることにする。私の案が必ずしも成功するとも限らないので、次善の策はあった方が良いという考えでもある。
「セブル、ハイツ、申し訳ありませんがいつもの通り店の外で待機をして頂けませんか?」
「わかりました。ですがなにかあればすぐに大声を出して呼んで下さい」
「いつものことなので良いですけど、俺達ってそんなに信用なりませんか?」
「信用とかそういう話では無いのですけど、今はまだですわね。二人が私に忠誠を誓えるというのでしたら良いのですけど」
「それが団長からの命令であればそうしますが」
「つまりはそういうことですわ」
私がそう言うと、納得したのかはわからないけど二人は店から出ていった。
「わかっていますわ。
皆が考え込む中、リリンが手を上げて質問をしてくる。
「お父君には知られたくないのですよね?」
「そうですわね。特にティアの存在は知られたくありませんわ」
「それはどうしてですか?」
「簡単なことですわ。大精霊の契約者などと知られてしまえば、王族や貴族の方々が手や口を出してくるからですわね。最悪は教会も、ですわね」
「教会ですか……。教会は王族以上に厄介かもしれませんね」
アドリネシア教。国教とまでは行かないがこの国で一番信仰されている宗教になる。その教えは創世神アドリネシアとそれを支える六神を信仰するというものだ。そしてそれらの下に精霊信仰も加わっている。
つまるところ、大精霊であるティアとその契約者である私がアドリネシア教に知られてしまうと面倒なことになるということだ。良くて聖女として祭り上げられ、一生教会で飼い殺しにされるだろう。悪ければ暗殺者を差し向けられて、ということになるのは想像に難くない。
前世のアドリネシア教には精霊信仰のようなものは無かったのだけど、一つ前の私が眠っている間に滅びたティアにとって二回目の世界で新たに大精霊の存在が認識されたようだ。そして今世では、精霊信仰もアドリネシア教の信仰対象となっている。
「そういうわけですので、お父様やお母様にはティアの存在をお教え出来ないですわ」
「それが無難でしょうね」
リーザの言葉に私とリリンは頷く。
「ロザリア様、結局のところシーリス様の病気とは何なのですか?」
「お母様のご病気は、魔力凝固症とでも言えば良いのかしら? 症状が魔力減衰病に似ていますが全く別の病気ですわ」
リリンの疑問に答える。魔力凝固症とは魔力回路に異常をきたして魔力の流れを阻害してしまうものになる。魔力が塞き止められることによって魔力減衰病と似たような症状を起こす。そのために長い間、魔力減衰病と同じ治療を施され、効果が現れずに亡くなる人が多かった。
私がお母様に抱きつき、時には抱きつかれ魔力を送っていたのは、その塞き止められている魔力を押し出すためだった。魔力を流すことによって、一時的に魔力回路に流れる魔力を正常にしていたわけだ。といっても効果は一時的な物で根本的な解決になっていなかった。
「そして、私はティアを通して治療薬の知識を得ました。後はリーザに素材の依頼と治療薬作りをお願いして、お母様の治療に必要な治療薬を用意することにしたのですわ」
「そうなのですね」
リリンが感心したように頷いている。大精霊ならそういう知識を持っていてもおかしくないとでも思っているのかもしれない。
「それでですわ。お母様を治療する治療薬をどうやってお母様に飲んでもらうのかですわね」
「それも、グレイス様やシーリア様にティア様の事を知られないようにですね」
「そうですわ」
「薬と言って飲んでもらうのが良いのではないですか?」
「私が持っていっても怪しいものだと思われるだけですわ」
三歳児が薬と言って青い色の液体を持っていっても怪しくておいそれと飲んでもらえないと思う。
(あら? お母様なら普通に飲んでくれそうな気がしますわね。いえ、流石にあのお母様でもそれはないですわよね?)
「でしたら食事や飲み物に混ぜるなんてどうですか?」
「残念ながらこの治療薬は他のものと混ぜてしまうと効果が無くなってしまいますわ」
この治療薬は無味無臭なのだけど、飲食どころか水などであっても混ぜてしまうと効果が消えてしまう。そもそも治療薬というものは、それ自体が完成品なのでそれに異物を入れると効果が減衰したりと言うのは普通のことではある。
「ここはやはりリーザイア様が薬をお持ちするのがいいのではないでしょうか」
「やはりそれが無難かもしれませんわね」
リリンの言葉に考えつく所はやはりそこかと頷く。
「私は嫌だぞ。面倒くさいし」
予想通りリーザは嫌がる。前世でも今世でもリーザは面倒くさがりなところがある。それに一度へそを曲げると中々こちらの言うことを聞いてくれない。ただ、なんやかんやといいながらも、最後には手を貸してくれるのがリーザのいいところなのだけど。
「意見は出尽くしたと思うが、結局ローザ様の考えはどういうものなのですか?」
「そうですわね。私の考えとしてはこれを使おうと思っていますわ」
私は指をパチンと打ち鳴らし空間魔法を発動してそこから以前の私の体を取り出す。
「これは!」
「ロザリア様?」
ティアに預けていた魂の抜けた以前の体。空間魔法の収納には時止めの効果があるので、腐敗が進むということもないし、その辺りは対策済みなので鮮度に関しては問題ない。
「二人には前世の話をしましたわね」
頷くリーザとリリン。
「その前世の体というのがこちらになりますわ」
「えっと、前世なのに体があるのですか?」
「その辺りは深く考えなくていいですわよ」
正直な所、リーザはともかくとしてリリンに説明するのが面倒くさい。
「私の考えとしては、未来から来たとでも言ってお父様に治療薬を渡そうと考えていますわ」
「意外と悪くない考えな気がするな。問題はローザ様のお父君が受け入れられるかだろうか」
「そうなりますわね。私としては問題ないと思っていますが、仮に失敗しても失うのはこの体だけですわ」
以前の体を失うことには思うところはある。だけどそれはお母様をお救いすることに比べればなんとも無いことだとも思っている。それに失敗しなければ再び回収することは出来るはずだ。





