第13話 報酬
「それにしても、ローザ様が私の弟子ですか」
「そうですわ。リーザからはいろいろなことを教わりましたわ」
「ちょーっとだけ待って、頭の中を整理するから」
リーザイアはそう言うと目を閉じて思案を始める。ティアは再び実体化を解いて姿を消す。
喉が渇いたので収納から紅茶の茶葉にお湯の入ったポットとティーセットを取り出す。リリンがそれらを使い人数分の紅茶をいれる。ミルクを多めに入れて一口飲む。舌がお子様なので許してほしい。
「ちなみにセブルとハイツを追い出したのはこの話を聞かれたくないから、でいいのかな?」
「そうですわ。あの二人は信用できますが、今世ではまだお父様の部下ですわ。私はお母様もそしてお父様も救うつもりでいます。そうなると現在のあの二人がどう行動するか私にはわかりませんわ」
「あの二人に話しても理解できるとは思えないけどね」
「理解はできないなりに、知ったことをお父様に報告されてしまいますわ。それはあまり良くないですわね」
実際あの二人は脳筋なので理解は出来ないと思う。ただ理解できなくても今の二人の立場ならお父様に報告されるのは塞ぎようがない。
「それもそうね。それよりも、この話って私になにか利益はあるのかな?」
「ふふ、リーザならそう言うと思っておりましたわ」
「……はぁ、自分のことを知られているというのはやりにくいね」
「ちゃんと協力してもらう報酬はありますわよ」
リーザイアが私の師だというのは前世の話であり今世ではない。それにリーザイアにとっては私は今日初めて出会った相手でもある。ティアの存在が私の話を真実だと保証はされたとしても、それがリーザイアの利益になるかというと全くならない。
流石にリーザイアとこのタイミングで出会うとは思っていなかった。だけど出会った時に協力してもらう見返りはちゃんと用意している。
「報酬はいくつかありますわ。レシピ、素材、魔石、そしてお金ですわね。望むのならこの先に起こる知識……と言いたい所ですけど、未来は変わりますわ。いえ変えてみせますわ」
「どれも報酬としては興味深いね。ちなみにレシピというのは?」
「レシピは私が作り出したものですわ。決して今後リーザが生み出すものでは無いですわよ。ただリーザが今後生み出すレシピを参考にしたものもありますわね」
「よし、レシピはやめておこう。それを見てしまうと私の楽しみが無くなってしまう気がするからね」
「リーザならそう言うと思っておりましたわ」
「ローザ様、君は意外と性格が悪いのだね」
「そうよ、なんて言っても将来は悪役令嬢として国外追放される身ですわ」
「ちなみにローザ様の持つ素材には、これに使えるものは無いのかい?」
「残念ながらありませんわ。あれば無理をして街まで来ることもなかったですわね。まあ、街に来た事でリーザと出会えたと考えれば、素材が無かったことはよかったのかもしれませんわね」
「私の欲しがりそうな素材は持っていたりするかい?」
「そうですわね……。各種属性竜の鱗なんてどうかしら?」
「……いまなんと?」
「竜の鱗ですわ。赤、青、緑、黄、白、黒、そしえ金、全部揃っていますわよ」
「将来のローザ様は恐ろしい存在に成長するのだね」
「安心なさい、今でも狩ろうと思えば狩れますわ。流石に今の姿ですと龍は難しいですけど」
「今のローザ様も恐ろしい存在なのだね」
「こんな愛らしい三歳児に向かって恐ろしいなんて心外ですわ」
「……」
「何か言ってほしいですわね」
リーザイアは無言で「こいつは何を言っているんだ」と目で訴えかけている。
「報酬は金でいい。店を買ったばかりで少し金欠気味でね」
「そう? まあ必要になれば融通はしますわ」
「その時は頼むよ」
「わかりましたわ。それでいくらくらい必要かしら?」
「そうだな、半分ほどは金さえ出せば手に入る。残りの半分は……。そうだないろいろ込みで金貨百枚と言ったところだろうか」
「わかりましたわ」
空間魔法で収納を開き金貨の入っている小袋を十個テーブルの上に落とす。流石に三歳児には一袋十枚だとしても金貨は重い。
「一袋金貨十枚入っていますわ」
「先払いでいいのかい?」
「リーザのことは信用していますわ」
「はぁ、ほんとローザ様はやりにくいな」
リーザイアは金貨の入った袋を一つずつ開けて中身を確認している。私のことを信用できないのか、なんてことは思わない。むしろ私の知っている前世のリーザイアと変わらない事に安堵すらしている。
「確かに受け取ったよ。先程は三ヶ月かかると言ったが一月で用意して見せるよ」
「お願いしますわ。薬が出来ましたらあの二人を通して連絡をしてくださいませ」
「分かった」
私はティーセットなど一式を収納にいれる。
「そうですわ。茶葉をいただけるかしら? 何も買わずに帰るのも不自然ですから」
「そう言うことなら、私のオリジナルブレンドを渡そう。少し待っていてくれ」
リーザイアは店の奥に入り、すぐに紅茶の茶葉の入った袋を持ってきた。
「これはサービスだ」
「感謝しますわ」
私の代わりにリリンが袋を受け取り、代金を払ってもらう。
「それでは失礼いたしますわ」
ちょうどセブルとハイツが戻ってきたようで、扉が開く。きっと偶然を装って話を聞こうとでもしたのでしょうね。
「セブル、ハイツ、帰りますわよ」
「買い物はもうよろしいので?」
「ええ、いい茶葉が手に入りましたわ」
セブルがリリンの持つ袋に視線を向けている。そのまま店を出るとハイツから食べ物の匂いが漂ってきた。
「姫様よろしければ」
「あら? いいの?」
「姫様とリリンのために買ってきました」
「そういうことでしたら、馬車に戻ってからいただくわ」
屋台の食事は今世になって初めて食べるわね。ハイツの持つ袋からはいい匂いが漂ってくる。流石にお腹が空いてきたわね。





