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第10話 街へ行こう

「お母様、今日もぎゅーっとしてもらえますか?」

「うふふ、良いわよこちらにきなさい」

「はい」


 椅子から立ち上がるとテーブルと椅子が運ばれていく。そのままお母様の前まで移動して背中を向けると抱き上げられる。お母様の腕は相変わらず痩せているけど、前世のお母様と比べると元気なのがわかる。


「ローザは相変わらず軽いわね」

「これでも大きくなりましたわ」


 お腹に回されたお母様の腕にそっと手を重ねる。ただ寂しさから抱っこをねだったわけではない。触れた手からお母様に魔力を流していく。大した効果は無いけど何もしないよりかはマシ。


「いつもローザを抱いていると体がぽかぽかしてきて楽になるわね」

「子どもは体温が高いと本で読みましたわ」


 しばらくそのまま抱かれていると、お母様の腕から力が抜けたのが分かった。そっと腕から抜け出すと、控えていたメイドがお母様をそっとベッドに寝かせた。


「ライラ、お母様のことお願いしますわ」

「お任せくださいませ」


 お母様の専属メイドであるライラに、お母様の事をお願いして部屋を出る。


「一度部屋に戻るわ。リリンはお昼をすませてきなさい」

「はい、行ってきますね」

「ティアも行ってきていいわよ」

「わかったにゃ。リリン待つにゃ、にゃーもいくにゃよ」


 リリンに部屋まで送ってもらい、ティアとリリンを送り出す。


「ふわぁ~」


 あくびが出た。いつもそうなのだけど、三歳児だからかお昼を食べると眠くなってしまう。靴を脱いでベッドに寝転び目を閉じる。ここからは日課のお昼寝の時間になる。そろそろ空間魔法の収納を開けられるくらいの魔力になる。そうなればいよいよお母様を治療できる治療薬の制作を始められる。


 ただし問題がある。それは治療薬の素材が手に入るかどうかわからないことだ。この三歳児の体だと気軽に遠出はできない。どうしたものかしらね。



「お父様、私街へ行ってみたいわ」

「ローザよ、急にどうした?」


 屋敷の執務室で、お父様が溜まりに溜まった書類整理をしている。領内の視察で留守の多いお父様ですが、しばらくはこの屋敷に留まって書類仕事をするようです。


 先日念願であった空間魔法の収納が使えるようになった。さっそく魔力隠匿のネックレスを収納から取り出して首からかけた。お母様を治すための治療薬を作る準備はできた。あとは素材を手に入れるだけ。


「お屋敷にずっといるのも暇ですわ。だから街へ行ってみたいと思ったのですわ」

「街か。何をするために行きたいのだ?」

「お買い物をしたいのですわ。お願いしますわ」

「商人を屋敷に呼ぶのではだめなのか?」

「だめですわ」

「何を買いたいのだ? わしが代わりに買って来るが」

「内緒ですわ」


 上目遣いにお父様を見上げ瞳を少しうるませる。おねだりをする時のコツだ。


「むっ……。俺の手があくまで待てないか?」

「それはいつくらいになりそうですか?」


 どう答えて良いのか困っているようだ。今までの経緯から考えると早くても、一週間はかかりそうだ。


「ではセブルとハイツを護衛として付けてくださいませ」

「ふむ、あの二人か」

「あとリリンも連れていきますわ」

「初めてのお買い物は一緒に行きたかったのだがな」


 ボソリと何か言った気がしたけど、聞こえていないふりをしておく。


「セブルとハイツを呼んできてくれ」

「かしこまりました」


 騎士団の副団長であるセイバスが部屋を出ていく。ちなみに団長はお父様だ。この国では各領地の領主が騎士団を擁している。団員は寄子の貴族がほとんどだけど、中には元平民もいる。


 騎士団所属の平民は、一世貴族の騎士爵を授けられる。そのためにこの国では騎士爵の数だけは異常に多い。騎士爵は各領地の領主が任命でき、騎士爵になった者がなにか国家的な功績を打ち立てると、国王から男爵位を頂けたりもする。


 言ってみれば、貴族であって貴族でないのがこの国での騎士爵だ。貴族の爵位によって騎士爵を任命できる数が決まっていて、功績次第では男爵にもなれるので選ばれるのにも意外と狭き門ではある。


 なぜこんな話をしたのかと言うと、私が所望したセブルとハイツの二人がその元平民の騎士爵だからだ。そしてセブルとハイツはこの屋敷から一番近くにある街の出身者でもある。


 そんな二人は若いながらも騎士爵に任命され、騎士団員になれる実力がある。街での護衛や案内役としては最適だと思ったわけだ。


「「団長、お呼びでしょうか」」


 しばらく待っているとセブルとハイツがやってきた。セブルは青い髪を、ハイツは緑色の髪をしている。


「済まないが二人には今からローザの護衛を頼みたい」

「姫様の護衛ですか?」

「街まで行きたいようだ。本来なら俺が行きたい所なのだがご覧の有様でな」


 お父様が机の上に乗っている大量の手紙や報告書を見ながらため息をついている。


「セブル、ハイツ、お願いできないかしら?」

「「ハッ! お任せください」」

「よろしくお願いしますわ」


 これで街に行くことが出来る。後は素材をどうにか手に入れるだけ。



 お父様に見送られリリンと共に馬車に乗り込む。護衛のセブルとハイツは馬に乗っている。実のところ生まれなおしてから、屋敷から出るのは初めてになる。貴族の子どもが初めて屋敷を出るのは、ほとんどが五歳になった年になる。


 五歳になると王都で開かれる子どものお披露目会に出ることになる。気が早い貴族などはその場で子どもの婚約者をみつけたりする。


 前世の私も五歳の時に、そのお披露目会の場で婚約者が決まった。それが馬鹿王子だったのだけど、あの頃の私は夢見る乙女だったので舞い上がったものだ。今世は全力でお断りするつもりではある。

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