グラッシス眼鏡店7
「こ、こんなにいただけません!」
マリーが慌てて受け取りを拒否すると
「迷惑料としてもらってほしい。金で解決するのは本意ではないが、これ以外の解決方法が思い付かないのだ。私の自己満足の為だから気にせず受け取って欲しい」
アーノルドの言葉にマリーは困ってしまった。
購入した眼鏡の何百倍の金額を渡されて、ありがとう受け取れるわけがない。
どうして言いかわからずジョージに助けを求めると
「ベデル様がそういってるのだから貰っておきなさい」
と苦笑しながら言われた。
ジョージは平民のくせに金銭に関してはおおらかな所がある。
「店長もそう言っていることだし、受け取ってくれないか。そのかわりに友人として店に遊びに来る許可をくれ」
これはいくら断っても意見を変えることはなさそうだ。
マリーはため息をついた。
「わかりました。店の修繕にでも使います」
「ありがとう」
アーノルドはホッとしたように礼をのべると
「そろそろ失礼するよ」
と立ち上がった。
マリーも立ち上がる。
「また来てもいいだろうか?」
「もちろんです。見え方の相談でも掛け具合の相談でも受け付けています」
営業スマイルのマリーにアーノルドは苦笑しながら
「それでは」
と去り際の挨拶をしようしたのだが、その声と
「おはよう、マリー」
と言いながら店に入ってくる男の声が重なった。
アーノルドの後ろから声がしたので振り向こうとするより先に
「バッカス!?」
というマリーの声がした。
店に入ってきた男は年は10代後半くらいで、やや長髪の茶色い髪に鳶色の瞳をしていた。
鼻筋が通っていて、アーノルドほどではないが、整った顔をしている。
背は175センチほどで細身だ。
「朝から店に来るなんて珍しいわね」
マリーが言うと
「今日は仕事が午後からなんだ。だからこの時間に来たんだよ………って接客中だったな。終わるまで待たしてもらってもいいか?」
「いや、もう帰る所だから気にしなくていい」
アーノルドが振り返ってバッカスに言うと
「ベデル補佐官でしたか!おはようございます」
とバッカスは丁寧に挨拶した。
「君は確か、ライト子爵家の………」
「ベデル補佐官に顔を覚えていただけていたなんて光栄です!王宮図書館で書庫管理をしておりますバッカス・ライトです」
「噂は聞いているよ。何でも1日で図書館のすべての本の場所と在庫を記憶してしまったとか」
「昔から記憶力はいい方でして………一度見たら覚えてしまうのです」
「君が風魔法使いだったことを図書館の者達は泣いて喜んだとか」
「ああ………火魔法だったら、図書館員にはなれませんからね」
昔、火魔法が使える図書館員がいてその力が暴走して貴重な書物が燃えてしまう事故がおきたそうだ。
それから火魔法保持者は図書館員になれないという法ができた。
「グラッシス嬢とは親しいのか」
「はい。魔法学校の同級生です」
「友人ということか?」
「はい、そうですね」
「そうか………」
アーノルドはしばらく考えるような仕草をした。
「あの……どうかされましたか?」
バッカスに言われてアーノルドはハッとした表情をした。
そしてマリーに何か言いたげに口を開けたが、すぐに
「いや………なんでもないよ」
と答えてから、
「長居して悪かった。それではグラッシス嬢、ライト殿、失礼するよ」
と言って店を出ていった。
「お疲れ様です」
「ありがとうございました」
バッカスとマリーはそれぞれそう口にして、アーノルドを見送った。