グラッシス眼鏡店4
くやしい!くやしい!くやしい!
マリーは泣くのを必死に耐えながら三角座りした膝に額をつけた。
レンズを作るのにどれだけの労力がかかっていると思っているのか。
「ベデル様は平民だからって差別する人じゃないと思っていたのに」
マリーは小さく呟くと、アーノルドに初めて会った日のことを思い出していた。
魔法学校に騎士団の一員として授業をするためにやってきたアーノルドにマリーはその時に初めてあった。
銀髪の髪が印象的な男前で、その場にいる女生徒の目はハートになっていた。
こんな綺麗な顔をした人がいるんだ。
マリーのアーノルドに対しての第一印象だった。
かなりの長身で体格もいいのに女装したらスゴい美人になりそう………マリーはそんなことを考えながら授業を聞いていた。
平民であるマリーはある意味学校で目立っていたが、そんなマリーにも分け隔てなく接してくれたので好印象だったのだ。
成績がいいことを素直に褒めてくれて嬉しかった。
それが……客として来た途端あの態度だ。
始めて接客した時はあのときの美人な騎士団の人だ!と思い、また会えてテンションがあがった。
アーノルドがマリーを覚えているとは思わなかったが、会話の中でその時のことを話せたらいいなと思っていた。
それがまさかの8回再作の悪夢の序章とは………。
あの時、少しだけ、本当に少しだけときめいていた気持ちを返して欲しい。
今ではあの銀髪を見ると動悸がするようになった。
あと何分でやってくる………と思うと冷や汗が止まらなくなる。
「二度と会いたくない」
客は他にもたくさんいるので、正直、アーノルドに構っている暇などないのだ。
祖父が残してくれた魔道具のおかげで他国からも眼鏡を買いに来てもらえる。
平民だが、裕福な暮らしが出きるくらいには稼いでいるのだ。
「平民だったら眼鏡を叩きつけて『二度と来るな!』って言ってやるのに」
こんなに平民であることが悔しいのも初めてだ。
次期侯爵にそんなことをすれば、物理的に首がとんでも文句は言えない。
自分だけならいいが、家族が巻き込まれるのは怖い。
「マリー、いいかい?」
ジョージはそう言ってからバックヤードの休憩室に入ってきた。
「………帰った?」
「まだいるよ。マリーと話をさせて欲しいそうだ」
「私は話すこと何もないわ」
「マリーが怒っているのはわかっているが、侯爵家を敵に回したくはないんだ。少しだけ頼むよ」
わかっている。平民はいくら理不尽な目にあっても貴族には逆らえないのだ。
「………ベデル様に手を上げそうになったら全力で止めてね」
「わかった」
マリーはため息をつくと立ち上がった。