グラッシス眼鏡店1
「マリー、ベデル様の調整は終わってるかい?」
整備された街の立地のいい場所にある眼鏡屋では、穏やかな男性の声が響いていた。
「さっき終わったところよ。乱視軸の微調整が難しくて時間かかっちゃった。お父さん、確認してくれる?」
マリーと呼ばれた女性はフーッと肩を揉む仕草をしてから、トレイに置かれた眼鏡を渡した。
マリー・グラッシス18歳。
薄い茶色の髪をポニーテールにしている。
大きな濃い緑色の瞳が特徴的で肌が透けるように白い。
背はさほど高くなく細身。
整った容姿のためこの『グラッシス眼鏡店』の看板娘だ。
ジョージ・グラッシスはマリーの父親で髪の色はマリーと同じだが、所々に白髪が混じっていて瞳の色は鳶色で中肉中背だ。
黒いフレームの眼鏡をかけている。
今年で50歳になる。
ジョージは度数測定器に眼鏡を置いた。
掛けていた黒フレームの眼鏡を外す。
ジョージは近視のため近くは眼鏡を外した方がよく見えるのだ。
度数測定器は顕微鏡のような形をしていて、レンズの度数を見ることができる。
「どれ……右の乱視軸が63?左は122?慣れにくくないか?」
「さぁ?何度も作り直しになるから、思いきって軸をかえてみたの。本当、クレーマー体質よね、あの人」
「まぁまぁ、彼は剣術を嗜んでいるから、見え方や掛け具合に人一倍敏感なんだよ」
ジョージはベデルの過去の度数を確認した。
「しかし……以前は両目とも軸は90で作っているな……過去はずっと90で問題無さそうだったけど………乱視の度数もあるから、さすがにここまで動かすと慣れにくいんじゃないかな。軸はそのままの方がいいと思うぞ」
「私だって最初は90で作って度数を1段階上げたくらいで処方したのよ。なのに見え方がどうだ、掛け具合がどうだって文句ばっかり!ムカつくから視力測定器で出た軸をそのままいれたのよ」
「これこれ、そんな風に投げ槍に仕事をしてはいけないよ」
ジョージが窘める。
「そんなに言うならお父さんが担当してよ」
「マリーがいいとベデル様が言うんだから仕方ないだろう」
「本当になんなのよ、あの人!顔はいいけど性格が無理!」
「彼は次期侯爵なのだから本人の前でその態度は絶対にだめだからね」
「わかっているわよ。はぁ……今日来るのよねぇ………めっちゃ憂鬱………」
マリーは眉間にシワを寄せた。
「これこれ、そんな顔してはいけないよ。せっかくの美人が台無しだ」
「はぁい」
「取りあえずベデル様がもうすぐ来店されるから言葉遣いに気を付けるように」
マリーはフーッとため息をつくと何度も作り直しさせられている眼鏡を恨めしそうに睨み付けた。