3.エルフとの出会い
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重い瞼をこじ開ける。どれほど眠っていたのだろう。
すぐ近くで寝息が聞こえて、首をかたむける。
これはまだ夢の中なのか?
白くなめらかな肌。粉雪をまぶしたようなまつ毛。つややかな銀髪。その隙間からのぞく、凛と尖った耳。
恐ろしく作り込まれた人形のようだ。しかし呼吸に合わせて胸が上下している。
エルフ。見るのは初めてだが確信した。同時にこれが夢ではないことを悟る。俺の頭ごときではこんなにも美しい生き物を想像できない。
しかしなぜエルフが俺の部屋で寝ているのだろうか。
そのとき。異様な物が目に映る。エルフの胸元から首にかけて、黄色い粘液のようなものがうごめいている。
侵食されている!
思うより先に立ち上がる。異物を取り除くべく手をのばす。
だが伸ばした手は白く優美な指にハシと掴まれた。
閉じていたはずの目が開いている。すみれ色の瞳がこちらを睨む。
「ドワーフが女に色を覚えるとは知らなかったぞ」
「いや、これは・・・」
「私を誰だと思っている。エルフ七賢人が一人、ロマネ・コンティなるぞ」
やはりエルフ。しかも七賢人。が何かは知らないけれど、とてつもなく地位が高そうだ。どうみても少女にしか見えないが、見かけに合わず結構年配な方なのだろうか。ドワーフは歳をとってもヒゲ以外あまり外見に変化がない。エルフもそうなのかもしれない。
ブーンと羽音のような耳鳴りがして、思考が中断される。
なぜだか嫌な予感がする。早く何か答えねば。
「その・・・それは大丈夫なんですか?黄色いやつ」
「ん?これか?これはスライムだ。お前の腕にも張りついているだろうが」
言われて視線を右手にうつす。同じく黄色い粘液がのたうっている。
「どわぁぁっぁぁぁ」
慌てて引き剥がそうとする。
「ばかっ。治療中だっ!まだ剥がすなっ」
引き剥がそうとした手も掴まれる。吐息がかかりそうなほど顔が近づく。金木犀の香りがふわりと漂う。スミレ色の瞳に、吸い込まれそうになる。
「治療・・・?」
「ホイミスライムだ。怪我を治す作用がある。知らないのか?」
「これがスライム・・・?」
思っていたのと違う。可愛らしい目がついていたりしない。前世の記憶でいうと粘菌が近い。しかも毒々しいまっ黄色。
「便利だぞ。傷の治癒を劇的に早めてくれるし、体の汚れもとってくれる。剥がすなよ」
「はい・・・」
ようやく両手が開放される。手首にエルフのしなやかな指の感覚がしっかりと残る。
「それと、目を覚ましたならちょうどいい。アモキシシリンの実だ。傷が膿むのを防いでくれる。噛まずに飲み込め」
「あ、え、はい・・・」
グイと伸ばされた手には、小粒の実が2粒つままれている。手のひらで受け取り、しげしげと見つめる。知らない人に貰ったものを食べてはいけません。幼稚園児でも知っている。だがこのエルフの美しさに圧倒されて、俺は言われるがままに口に運びそれを飲み込んだ。
「ハクシュウに感謝しろ。お前の師は弟子の治療のために渾身の業物を二振りも手渡してきた。しかもハクシュウ自身の銘だ。一振り10テラは下らないだろう」
エルフはマントの下から刀を取り出し、うっとりと眺めた。
「それと私が居合わせた幸運にもな。私がたまたまドワーフ鉱に訪れていなかったら、お前の右手はもげていただろうよ」
「・・・ありがとうございます」
「まぁ、熱も下がったようだし、一安心だ。右手はあまり動かすな。筋肉や腱は縫い合わせたが、お前らドワーフはやたらに鍛えているから弾けやすくてな。まぁお前は比較的鍛練が足らなそうで助かったが」
「・・・分かりました」
うっすらと、縫われたり氷枕を当てられた記憶が蘇る。高熱でうなされていたらしい。
「さて。私は別室で仮眠をとらせてもらうよ。また襲われてもかなわんしな」
「いや、それはっ・・・」
美しいエルフは皮肉っぽく笑って、颯爽と部屋を去っていった。
部屋がしんと静まり返る。・・・エルフ!エルフがいた!
転生してから三年間、ドワーフとしか会っていなかった。外と交易しているのは師父から聞いていたし、ドワーフ以外の種族がいるのも聞いていた。だが実際に目で見るのとは大違いだ。
この異世界には、むさ苦しいドワーフが薄暗い洞窟にひしめいているだけではない。ちゃんと外の世界があって、エルフやらスライムやらがいる!スライムはちょっとだいぶ想像と違ったけど。
そしてもう一つ。今スライムが覆っている手は、明らかに金属製の骨格をしていた。
そして関節はよく見知った人体のものでなく、あたかもロボットアームのそれだった。
というかあれだ。俺ロボットだわ。アンドロイドとも言う。ドワーフに転生したと思ったけど、そもそもドワーフという種族がアンドロイドなのではないか。長年の疑問が解ける思いだった。
だってドワーフは男しかいない。皆"偉大なる母"とか呼ばれるばかでかい機械から生まれてくる。それも最初から成人の姿で。そしてなにより、骨格が金属でできている。
ロボットか・・・斬新過ぎやしないか俺の異世界転生。トラックに轢かれることもなく昼寝から覚めたら転生だし、女神には会えずにそのままドワーフに転生だし、ドワーフって言ってもロボットだし。
ロボット。当然のれの頭も金属製なのだろう。脳みその代わりに金属チップが詰まっている。俺に心はあるのか。それとも今のこの思考も単なるプログラムにすぎないのか。
まぁそれはどうでもいいや。イケメンに生まれ変わったんだ。心がなかろうがプログラムにすぎなかろうが文句はない。
それより!ドワーフが気骨とか呼んでるロボットパワー。なぜ俺だけがいきない解放できたかさっぱり分からないが、鍛練すれば使いこなせるかもしれない。そうすればこの薄暗い洞窟から脱出できるかもしれない!
そしたら髭をそって、顔面力で異世界無双まったなし。
そこまで考えて、しかしさっきからこみ上げてくる眠気に抗いきれなくなり、俺は眠りに落ちた。
分かったこと:ホイミスライムは実写化するとキモイ。イチローはロボットになっても気にしない。




