3分で読めるSS No.2『雪原と足跡、そして少年』
ある朝起きると 街は白く染まっていた。
歩きにくくて 大変だなあ。
学校へ会社へ行く人が歩いていた。
みんな誰かの足跡を辿って 先人の歩幅に合わせて そろそろ歩いていた。
僕もみんなにならってそうしていた。
どこから田んぼか側溝かもわからない。
そんな時 高校生くらいの男の人が 誰も踏んでいない真っ白な道を駆け抜けていった。
汗かいて いきも切れ切れで
道を踏み外さないようにと 下を向く僕たちとは違って
前を見て 楽しそうに笑っていた。
まっしろな雪をひとりじめする彼をうらやましいと思った。
すると 彼は転んでしまった。
僕の周りの人たちはみんな彼をあざ笑った。
馬鹿なやつだ と。
まあ 自業自得だよな と。
でも彼はすぐに立ち上がった
今度は転ばないようにゆっくり歩いていた。
けど今度は側溝にはまった。
周りの大人はまた笑った。
親切そうなおばさんが こっちへいらっしゃい と言った。
それでも彼はまっしろの道を進んでいった。
何度も立ち上がり 自分の道を進む彼を
僕は かっこいい と思った。
僕もそっちに飛び出してみたい。
いざ踏み出そうと足を持ち上げた。
そしたら近くのおじさんが言った。
あんな風にはなるなよ あれは先ってもんが見えてないんだ。
あいつは今さえ良ければそれでいいんだ。
僕はそれを聞いて足を戻した。
しばらくして彼はずっと前に行って見えなくなった。
その時は飛び出したくてたまらなかったけど 怒られたくないから大人の言うことを聞いた。
そしてしばらく歩いた後、彼は雪の上で座り込んでいた。
うつむいていて、顔は見えない。
どうしたんだろう?
結局、僕に抜かされているんじゃん。
あの時と違って全然楽しそうじゃないし。
僕は、みんなの列をを飛びださなくてよかったと自分に言い聞かせた。
足
跡
足
跡
足
跡
足
跡
足
跡
足
跡
足
跡
足
跡
足
跡
足
跡
足跡
そして3年。
足
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足
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足
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足
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足
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足
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足
跡
足
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足跡
そして5年。
足
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足
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足
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足
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足
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足
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足
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足
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足
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足跡
そして10年。
足
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足
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足
跡
足
跡
足
跡
足
跡
足
跡
足
跡
足
跡
足
跡
足跡
あれから10年。
彼は有名なミュージシャンになった。
友達も、彼女も、先輩も、彼の歌を聞いて、いい歌だねと言う。
僕もいい歌だと思う。
彼は本当にすごい。
やっぱり僕と彼は根本的に人間としての格が違うのだな。
でも、もし、あの時、
新雪に一歩踏み出していたら・・・
いや、僕なんかが飛び出したところで彼のようにはなれなかっただろう。
そうに決まってる。
この足跡を追い続ければ、田んぼに落ちることも、側溝に落ちることも無いのだから。
そのほうが良いに決まっているじゃないか。
僕は今日も、誰かの足跡を辿って、みんなでぞろぞろと会社に行く。
僕は、みんなの列を飛びださなくてよかったと自分に言い聞かせた。