万能ポーションのウワサ
ステュクスにネックレスをつけてあげた。
以来、未知の病による高熱や咳、眩暈や吐血はほとんどなくなった。毎日辛そうで酷かったに、俺の作ったS級アブソリュートが本当に病の進行を遅らせたのだ。
三日、五日と時間が経つごとにステュクスの顔色がよくなって、庭を散歩できるほどに回復。笑顔も増えた。
「見てください、兄さん。こんなに歩けるようになったんです!」
「こんな長時間歩けるなんて奇跡だ」
「兄さんの作ってくれたネックレスのおかげです。ありがとうございます」
目の前で感謝され、俺は照れた。
この日をどんなに待ちわびたか。
ステュクスが健康であれば、俺はそれでいいんだ。
でも、治ったわけではない。
完治させるためにも、俺は……そうだ、ぐずぐずはしていられない。
「ステュクス、俺は次に秘薬を探そうと思う」
「秘薬、ですか?」
「うん。全ての病気を治すという、ある意味では不老不死にもなれるという万能のポーションがあるらしい。でも、噂というか……かなりあやふやな情報だからな。本当に実在するかどうか分からない」
「このネックレスだけでも嬉しいですよ。あまり無茶はしないで下さいね、兄さん――ゲホッ、ゲホッ……」
「ステュクス、大丈夫か! ……どっちが無茶だ。そら、もう部屋へ戻ろう」
やっぱり、ネックレスの力では限界があるんだ。以前よりは動けるようになったとはいえ、まだ自由はない。それに、病は確実にステュクスの体を蝕んでいる。その事実から目を逸らすわけにはいかない。
ステュクスを部屋に連れていき、ベッドへ寝かせた。
「兄さん……わたし」
「気にするな。俺がきっと治してやるからな」
「……ごめんなさい。わたしのことで……兄さんにご負担を……」
「負担なものか。俺はステュクスがいないとダメなんだ」
弱々しく微笑むステュクスは眠りについた。
今は傍にいてやろう。
そう思った直後。
部屋の扉が開いて、慌しく親父が入ってきた。
「ここにいたかカロン!」
「どうした親父。今、ステュクスが寝ているんだ。静かに……どうした、血相を変えて」
「緊急事態だ。別の部屋で話そう……」
「分かった」
部屋を移動し、広間で話すことにした。
* * *
親父は頭を抱えていた。
こんなに深刻そうな表情でどうしたんだ……?
なんだか嫌な予感がする。
「……カロン、このままでは公爵家は終わりだ」
「な、なにを言っているんだ。ウチが終わりとか」
「騙されたんだ……ブラックスミスギルドに……」
「なんだって?」
「ロブソンだ。ヤツに投資の話を持ち掛けられてな……必ず儲かるからと莫大な資金を融資したんだ。しかし、ロブソンはギャンブルや女遊びに全てをつぎ込んでしまったようだ……」
「そんな馬鹿な。てか、親父もなにやってんだよ!」
「金は全て民の税金から拠出したもの……血税だ。これバレたら、一家はおしまいだ。さらし首だぞ……」
膝から崩れ落ちる親父は、両手をついて絶望していた。こんな泣き崩れる姿は、初めて見た。いつも傲慢だが――でも、民のことは一心に考えていた。そのことは知っていた。親父が騙されやすい性格なのも。
そんな親父を利用するなんて……ロブソンのヤツ、許せん。
「分かった。俺がなんとかする」
「カロン……お前に鍛冶屋のことで散々言っておいて……私はこのザマだ。笑いたければ笑うがいい……だが、だが……。私は常に明日のことを考えている。食べるために、生きる為には……仕方なかったんだ」
「親父の気持ちはよく分かった。ここで待っていてくれ」
魔剣・アノマロカリスを腰に携え、俺は屋敷の中を駆けていく。家の為に、民の為に俺は……ロブソンを断罪する。